ありがとうの物語

竹井京子さん

1968年 東京都出身
大学の英文科を卒業して1990年に旅行会社に就職。
入社8年目、激務のストレスが原因で潰瘍性大腸炎を発症
転職して財団法人に再就職し、現在に至る。
潰瘍性大腸炎の患者会「ちばIBD」副代表。


日曜日の公園。うまく木登りできるかな?

おばあちゃんと日曜日の公園へ。うまく木登りできるかな?

子育て、家事、仕事、そして患者会。毎日がフル回転で過ぎて行きます。

平日は保育園、休日は自然の中で子どもと遊びます

平日は保育園、休日は自然の中で子どもと遊びます

———今お子さんが3歳。子育ても大変な時期、忙しそうですね。どんな毎日ですか?

はい!私は10時から16時半まで事務の仕事をしています。起床は6時。朝のうちに朝食とお昼のお弁当の準備。そして夕食の下ごしらえをすませます。9時に息子を保育園に預けて出勤です。夕方は子どもを迎えに行き、19時に帰宅ですね。ご飯を食べ、お風呂に入れて21時半頃までに絵本の読み聞かせをし、子どもを寝かしつけてから、洗濯をしてやっと一日が終わります。休日は患者会活動をしています。患者会がない週末は、子供と公園で遊びます。昼食を食べて一緒にお昼寝をし、家族で近所のスーパーに買い物に出掛けて、夕食です。その後、主人と子供が2人で遊んでいる間に掃除をして、お風呂と就寝…。やることいっぱいの毎日ですね(笑)

旅行関係の超多忙な業務とストレスが原因で発症

———活動的でお元気そうに見えますが、潰瘍性大腸炎という慢性疾患を抱えていらっしゃる。難病と聞いていますがどんな病気なのでしょうか?

潰瘍性大腸炎の特徴的な症状としては、下血を伴う下痢が起きたり、急に腹痛が起きることで、トイレに駆け込まなければならないことも少なくありません。と言っても私はそんなに重症なほうではなく、手術もしないで済んでいます。潰瘍がひどい場合は大腸を手術で切除しなければならないこともあります。

———どんなきっかけで病気に気づいたのですか。

1990年に旅行会社に就職し、東京駅の支店でカウンター業務を経験後、内勤で国内や海外旅行の手配に従事しました。毎晩22時半くらいまで勤務をし、真夜中に自宅に帰宅する日々を送るうちに、次第にお腹の調子が悪い日が続くようになりました。最初は症状もなく、便をした後にお尻を拭くと小さな血がついているのをみててっきり「痔だ!」と思っていました。

そんなある日、職場の健康診断で便潜血検査をしました。その後レントゲンの検査があったのですが、最初に受診したお医者さんは、レントゲンに特別な異常はないと判断したようです。しかし、母が親戚などに大腸がんの人もいるため遺伝的なことを心配して、私に別の病院で再診断することを勧めてくれたのです。この時の先生がラッキーなことに潰瘍性大腸炎の専門医でした。この先生は最初の検査の時と同じレントゲン写真を見て「これは大変な状態になってしまっています。潰瘍性大腸炎という病気ですね」と告げられました。それでも比較的早期発見だったほうだと思っています。

————発症当初はどんな症状があったのでしょうか?

当時はいつも疲労感が抜けず、仕事の忙しさから来る睡眠不足もあって生あくびが頻繁に出ていました。それからおならも我慢できなかったです。父には「年頃の女性が人前で、そんなにおならをするんだ。場所を考えろ」と叱られました。後でそれが病気の症状だと知った父は「かわいそうな事を言ってしまった」と言っていたそうです。

いつも気が張り詰めていて、自宅でお風呂に入っている間も仕事でやり忘れたことを思い出すというように、落ち着くことがありませんでした。お腹の調子がどんどん悪くなり、これ以上、旅行業界で働き続けるのは限界だと感じました。転職を決意し、財団法人である現在の職場の就職試験を受けたのです。

誰かの役に立っているという思いが自分の病を受け入れる事につながった

自分だけはすぐ治してみせるなんて思っていました。

自分だけはすぐ治してみせるなんて思っていました。

———働く環境を変えたことでどんな変化がありましたか?

仕事を変えて忙しさからは解放されました。しかしいくら身体に負荷がかからないように大人しく生活していても、ストレスや疲れがあるとすぐに下痢や血便になってトイレに走る…「どうしたら元の生活に戻るのだろう」と当時はそればかり考えていました。風邪などの病気は、一定の期間が過ぎれば、治癒して元通りになるのにと、納得できずにいました。「私だけはこの病気を治して元気になってみせる」とさえ、思っていました。

家族の理解と協力と患者会活動を支えに明るく楽しく前向きに

———患者会がスタートして10年になるそうですね。

はい最初のきっかけは、ネットで同じ病気の人の相談に乗り、症状が楽になった人達から「ありがとう」と言われたことでした。その時期に、ある保健師さんが、潰瘍性大腸炎の患者会を設立しようとしていて、「やってみない?」と声を掛けられたのです。患者会では患者さんやそのご家族から「同じ病気の人と話せる機会があって、安心した」「自分1人じゃないと思えた。同じ悩みを共有したり、相談したりできる場があって、本当によかった」と言われることにやり甲斐を感じています。また忙しい先生方はどうしても短時間診療になってしまいます。そんな時、不安を持った患者さんの疑問などに自分や他の患者さんの経験からお話することもしています。

活動を通して講演会に参加して主治医以外の話を聞いたり同じ病気の人の症状の相談にのっているうちに、私自身に変化がありました。「元通りの身体に治そうとするから精神的にもつらいんだ。難病と言われるからには治らないのだから、病気と付き合う方法を考えよう」と思えるようになったのです。

寝る前はパパと一緒に絵本を読むのが楽しみ

寝る前はパパと一緒に絵本を読むのが楽しみ

———愛情深いご家族に囲まれて幸せですね。

主人とは、患者会で知り合いました。同じ病気を持ち、彼は私より症状が重い状態を経験しています。このため私が食後にトイレに駆け込む姿を見ては、「今は、あまり状態がよくないようだから、無理をしないで」と声を掛けてくれます。また、彼はお料理が趣味で得意なので、休日の昼食と夕食は、彼が手料理をご馳走してくれるんですよ。

頑張っている先輩を見て出産も子育ても大丈夫と思えた

———出産、子育てはなかなか大変なことですよね。

はい。3年前に妊娠が分かった時、一番喜んで応援してくれたのは母でした。
病気を持ちながらの出産は不安なことも多かったですが、同じ病気の先輩方が何人も出産していたので、自分も大丈夫だろうと思えました。また、自分の出産で、他の患者さんへ勇気を与えることができたら素敵だと考え、妊娠中もワクワクしていました。

そして無事出産できて、大変ながらも無理をせず順調に子育てをしていたのですが、子供が2歳になって間もなく、たまっていた疲労から熱を出し、病気が悪化し、下痢と血便が止まらなくなりました。
1日20回以上の便意に襲われ、トイレから離れられず、トイレで寝たいと思う状態でした。

最後は水を飲んでもトイレに駆け込むようになり、とうとう入院しました。このため実家の父母に息子を1週間預けることになりました。母と息子が毎日病院へお見舞いに来てくれて、帰りは泣かずに元気に「バイバイ〜」と帰って行くのですが、夜になると「かあさん。かあさん」と泣きじゃくっていると聞いて、こんな小さな子に負担をかけて申し訳ないと涙が出ました。

頑張りすぎず、無理はせず、でもできることをきちんと

おばあちゃんの手料理。孫の優志君の大好物の天ぷらやとカツ。

おばあちゃんの手料理。孫の優志君の大好物の天ぷらとカツ。

———今一番大切にしているのはどんなことですか?

仕事と家事&育児と患者会活動の両立ですね。どれも自分にとって欠かせないものなので、頑張りすぎずに、無理な時は無理してやらない・・。できることを1つずつやる、というスタンスで楽しむようにしています。職場の方たちは私の状態などからすでに病気のことは知っていると思いますが、あえて病名などを尋ねられたことはありません。私も自然体で無理をせず、でも仕事はきちんとこなすということで周囲には理解してもらえていると感じています。

———ご家族がとてもさりげなく日常を支援してくださっているのですね。

同じ病気を持つ主人と結婚することを決めた時、父母は「何かあったら、助けてあげるから、やるだけやってみなさい」と背中を押してくれました。後から話を聞くと、父母も同じように不安だったそうです。両親は今も、主人の身体のことも心配し、私たち家族のために家事や育児を手伝ってくれます。

私が実家に帰ると、自宅に戻る日に必ず、母が大量の料理を作ってもたせてくれるんです。私が仕事と育児で疲れて病気が悪化しないようにとあらゆる面で、サポートしてくれています。仕事と育児と患者会運営を両立できているのは、本当に母のおかげです。感謝しています。

これからも負担を掛けてしまうことが多いと思うけど、長生きをして、太陽のような微笑みで周りを照らし続けてください。

郊外に引っ越したことをきっかけに57歳で自動車免許を取得したというお母さん。公園にはお母さんの運転で。

郊外に引っ越したことをきっかけに57歳で自動車免許を取得したというお母さん。公園にはお母さんの運転で。

お母さんへ ありがとう

旅行が大好き。笑顔が素敵なお母さん。


インフォメーション

潰瘍性大腸炎とは?

潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜の内側の層にびらんや潰瘍ができる病気です。潰瘍性大腸炎の患者数は133,543人(平成23年度特定疾患医療受給者証交付件数より)人口10万人あたり100人程度といわれていますが、食生活の欧米化とともに増加しています。特徴的な症状としては、下痢が頻回になることや下血、そしてよく起こる腹痛です。潰瘍の病変は直腸から連続的に、そして食道側にまで広がる性質があります。基本的には良性の病気で、ほとんどは適切な内科的治療により普通の生活が送れるようになりますが、中には腸管が広がってしまう中毒性巨大結腸症や腸の壁に孔があく穿孔となる場合など、病気が悪化するケースもあります。

千葉のIBD患者会 ちばIBD http://www.chiba-ibd.com
難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/62


(撮影)多田裕美子

ページの最初に戻る

Information

  • 新着情報
    医療ポータルサイト「めでぃログ」がオープンしました。
    患者さんがその時点で最良な医療にたどりつき、自分にとってベストな医師に出会うための情報を発信していきます。このサイトは日々、進化していきますので、ご期待ください。