ありがとうの物語

川井千鶴 さん

川井千鶴 さん (40歳) プロフィール

1975年生まれ 岡山県出身

聴覚障害をもつ両親の元に生まれる。2004年の風疹大流行時に自身が風疹にかかり、その後長女七海ちゃんを出産。現在11歳になる七海ちゃんは先天性風疹症候群と診断され、難聴、肺動脈狭窄症、てんかん、知的障害などさまざまな障害が重複している。

全国組織 『 風疹をなくそうの会 hand in hand 』 岡山支部代表として活動中。パート従業員。趣味はカラオケなど


知らされなかった「妊娠中に風疹にかかること」の危険性

「知らなかった」ことで誰かに同じ後悔をしてほしくない。

「知らなかった」ことで誰かに同じ後悔をしてほしくない。

———川井さんがお子さんの七海ちゃんを出産なさったのは2004年ですね。

はい。28歳で妊娠し29歳の時に七海が生まれました。2004年は風疹が大流行した年でした。

———七海ちゃんは現在11歳。障害があるということですが…。

聴覚障害のほかに、自閉症、てんかん、肺動脈狭窄症状があり、知能は2歳程度と言われています。

———風疹というのは子どもだけの病気ではなく大人もかかるんですね。

そうです。妊婦さんが風疹になると、お腹の中の赤ちゃんに影響し、障害が残ることが多いといわれています。妊娠中に母親が風疹にかかりその影響を受けた子どもの状態を先天性風疹症候群(CRS)といいます。

———風疹の予防法として予防接種があるそうですが、川井さんご自身は、風疹の予防接種をしていたのでしょうか?

私は学校で集団接種で受けているはずの年代と言われていますが、記憶はありませんし、自分で医者にいって接種した覚えはないです。

———産婦人科では風疹について説明がありましたか?

妊娠して6週目、産婦人科で検査を受けた際に「風疹の抗体がついてないね」と言われています。その後2週間くらいの間に、私は風疹にかかりました。

———「抗体がない」と言われた時どうしようと思いましたか?

当時はまったく知識がなかったのです。そう言われても何をどうしたらいいのかという説明もありませんでした。

産科医から「ここでは産めない」と言われる衝撃

———風疹にかかったとわかった時、お腹の赤ちゃんへの影響については説明されましたか?

医師からは「奇形児が生まれる」と中絶を勧められました。「ここでは産めない。産むんだったら、紹介状を書くから」と。
 最初は理解ができず、時間がたつにつれて涙がでてきました。実は体調の面で、もう妊娠できないかもしれないと言われていた時にやっとできた赤ちゃんです。それなのに…。母親にも相談しました。私の母は聴覚障害者ですが、「風疹の影響で障害児になるかもしれない」と言われ、母にも出産を反対され号泣しました。さんざん泣いたあとで「この子は自分のところに降りてきた子だから、私がしっかり守ってやろう」と決めたんです。

———とにかくお子さんを守るのだと言う母の決意ですね。

はい。それで紹介された産婦人科に行くと、産科、小児科の先生が何時間もかけて説明してくれました。それでも私の産みたいという気持ちは変わりませんでした。先生は私たちの表情をみて、「協力する」と言ってくれました。唯一私を救ってくれたのが私の担当になってくださった産科医の女医の先生です。

赤ちゃんに次々と現れた風疹症候群のおそろしい影響

保育器の中の七海ちゃん。1668gで誕生。

保育器の中の七海ちゃん。1688gで誕生。

七海ちゃん1歳のころ。

七海ちゃん1歳のころ。

———それで出産に臨まれたのですね。

はい。七海は未熟児だったので保育器に入る必要がありましたが、その時点では小さいと言うだけで、問題がないように思えました。

———いつごろから、症状が現れたのでしょうか?

保育器の外側をコツコツ叩いても反応がないので「この子は耳が聴こえてないんだな」と感じとりました。でも私の場合は、両親が聴覚障害者で、聾者の環境で育っているので耳のことは違和感なく受け止められたのです。
 でもそれだけでは済みませんでした。心臓の検査の結果、肺動脈狭窄という病気があり血管が細いと言われ、さらに5カ月目にてんかんの発作が起きました。 その後も3歳くらいから、知的障害と多動、自閉症、そして小学校に上がる前頃からは睡眠障害が出てきました。細かく言えば他にもいろいろあります。

コミュニケーションと身の回りの自立、どちらに特化した教育を選ぶべきか

———現在の七海ちゃんの状況はいかがですか?

ほとんど一日中見ていないといけない状態で、ひとりには絶対させられません。七海は学校から自宅まで送迎してもらっているので、私は夕方までの仕事を終えるととにかく急いで帰宅します。食事、入浴、そして薬を飲ませなければいけません。

2歳の頃 乳幼児教室で。ブランコが大好き。

2歳の頃 乳幼児教室で。ブランコが大好き。

———七海ちゃんの人生を考えて、どのような学校を選ぶか悩まれたそうですね。

岡山にある聾学校は耳の教育が専門なんですが、最近は重複障害も受け入れるという体制にかわってきています。聾学校の隣に知的障害専門の学校もありますが、聴覚に関する教育を優先するのか、身の回りの自立を優先して教育するかで悩みました。その結果、人とのコミュニケーションを第一にと考え聾学校を選びました。

聾学校を選択し手話や指文字などコミュニケーション教育に力を入れることを決心

聾学校を選択し手話や指文字などコミュニケーション教育に力を入れることを決心

———そろそろ思春期に入るころですが難しいことも増えてきますね。

そうですね。実は自傷行為が出ているのです。これは原因がわからなくて。第二次性徴期に入っているので、ホルモンバランスの関係も影響してくるようです。また耳が聞こえないため自分が伝えたいのに伝わらないなど、いろいろなことが重なっていると思います。

妊婦だけではなく、働き盛りの男性にこそ予防接種を受けてほしい

———ご自身の体験から 『 風疹をなくそうの会 hand in hand (HP:http://stopfuushin.jimdo.com/)』 を始められたのは、正しい情報を世間に伝えたいということでしょうか。

そうです。妊娠20週までの女性が風疹に感染した場合、流産につながったり、七海のように胎児にも感染し、眼や心臓、耳などに障害を持つ子どもが生まれる場合があるということをみなさんにきちんと知らせたいです。

———風疹は妊婦さんに感染すると、赤ちゃんの一生を左右する大病なんですね。

はい。夫がかかって妊娠中の奥さんや職場の女性にうつることも考えられます。
例えば今から2年前2013年の流行の中心は成人男性で、女性の約3倍の人がかかったそうです。特に男性は昭和37年~平成元年生まれ、女性は昭和54年度~平成元年度生まれの方が多くかかったそうです。男女問わず予防接種が有効なのです。

———どうして男女でかかりやすい年代が違うのですか?

風疹の予防接種制度が男女別、年代別で異なっているのが理由のようです。過去に風疹にかかっていれば抗体がありますが、風疹の予防接種については私のように記録や記憶も曖昧な方がほとんどなのが現状です。専門家によると20代から40代の女性にも抗体が低い、もしくは無い女性がいます。

———妊娠可能性のある年代の女性だけが予防接種を受ければいいのでしょうか?

いいえ。男性も、年齢は問わず社会の人みんなが予防接種を受け、抗体をもって欲しい。そうすれば感染が広がることはなく、流行はなくなるんです。

親子で岡山から新幹線で上京。六本木から霞ヶ関までパレードしました。

———風疹のことをもっとみんなに知ってもらう為のパレードにも参加しているのですね。

今年も7月2日に東京の六本木から霞ヶ関の厚生労働省までみんなでパレードしました。小児科医の先生もたくさん参加してくれて、厚生労働省で記者会見もしました。
 七海は会見中に記者の人や厚生労働省の方などのところに行って1人ずつにハイタッチをして歩きました。彼女なりのコミュニケーションなのだと思います。シーンとした会議中ですから親としてはちょっとヒヤヒヤで恐縮しているのですが、会場の雰囲気が七海の動きによってちょっと和やかになっているのも確かなので…。

ハイタッチで会議室を何週もする七海ちゃん。厚労省にて。

ハイタッチで会議室を何週もする七海ちゃん。厚労省にて。

———さまざまな活動の成果はどうでしょう。

成果は感じられます。少しずつですが、男性でもワクチンを受けにきてくれる人が増えてきたという情報もあります。活動を続けてきてよかったなと思います。

大変なことも多いけれど、たくさんのつながりに囲まれた幸せな毎日

昨年の運動会。母娘で頑張りました

昨年の運動会。母娘で頑張りました

夏の日比谷公園で。風疹の予防接種の大切さを訴えるパレードをおえて。

夏の日比谷公園で。
風疹の予防接種の大切さを訴えるパレードをおえて。

———川井さんはお母さんとしてそして社会的な活動でも本当に頑張っていますね。

障害を持つお子さんを育てている人なら私以上に頑張っている人はたくさんいます。これも私の宿命です。そこから逃げようとは思いません。
 現在入院中の私の祖母が、以前私に一度だけ「生んで後悔していないの?」と聞いたことがあります。私は「してないよ」と即答しました。私の母は赤ちゃんの時の高熱によって難聴になったそうですが、祖母はいつも泣いて母にゴメンネと言っていたようです。障害のある子どもを育てるという意味で私と祖母は同じ立場にいるのです。でもね、私より七海本人が一番大変なんです。風疹症候群は次に何がおこるか分からないので、いつも覚悟していなければいけません。

———七海ちゃんの成長を感じるのはどんな場面ですか?

今は指文字と手話とジェスチャーでいろいろ話しています。それからもう少しでトイレの自立ができそうなんです。これはあきらめなくてよかったです。本当に少しずつですが、ちゃんと成長しています。

———子育てを楽しんでいますね。

はい。とても。大変な事も多いけれど七海は幸せだと思います。 『 風疹をなくそうの会 』 では、みんなが親戚みたいに温かく接してくれます。本当に多くの小児科の先生が応援してくれて皆さんとつながっている。岡山でも行政の方や議員さん、大学の先生、みんなが七海を思ってくれる。普通の人生にはあり得ないような経験だなって思います。
 七海がYouTube等を見て「お母さん一緒に踊ろう」と誘ってきたりするとうれしいです。運動神経がいいみたいで音は全く聞こえていないのに…いつも踊っています。いろんな表情をしてくれるし、毎日楽しいですよ。七海は私の宝物です。

ありがとうの手紙


インフォメーション

先天性風疹症候群

2012年度に実施された厚生労働省の調査によると、風疹の免疫を持たない人(1~49歳)は618万人(男性476万人、女性142万人)と推計される。このうち成人は475万人。職場などでの風疹の大流行はいつ起きてもおかしくない状況だ。風疹にかかると発熱や発疹、リンパ節の膨張がある。治療法は特にない。予防接種制度がなかったために風疹にかかりやすいのは2015年4月1日時点で36歳以上の男性と53歳以上の女性だ。妊娠20週目までの女性が風疹にかかると胎児が先天性風疹症候群になる可能性がある。
風疹の抗体価の低い人は性別・年齢に関わらず予防接種を受ける事が推奨されている。特に海外で風疹が流行している地域に行く場合はワクチンを打って出かけたほうがよい。

風疹をなくそうの会 HP http://stopfuushin.jimdo.com


(撮影)多田裕美子

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