患者がカルテを管理する時代
医療データの利活用が未来を変える

2018 年 6 月 22 日

 メディカル・データ・ビジョン株式会社は1月17日、「患者がカルテを管理する時代」と題したプレスセミナーを開催しました。同セミナーは、昨年9月に患者と診療情報を共有する「カルテコ」の機能を持つ病院向けソリューション「CADA-BOX」を導入していただいた社会医療法人財団董仙会(石川県七尾市)恵寿総合病院の神野正博理事長と、認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの山口育子理事長のお二方による対談形式で進められました。対談では、診療情報を患者と医療者が共有する ことで、コミュニケーションがどのように変わるのかなどについて話し合っていただきました。

以下が、対談の主なやりとりです。

司会:まずは、診療データは一体誰のものなのかという質問からお二方にお聞きします。

神野理事長

 診療データは基本的には、患者さんのものだと思います。診療データには、いろいろなものがあります。画像や検査データなどの、いわゆる客観的なデータ。そして、診療録の中には、医師の所見や診断のほかに、覚書的なものもあります。この覚書的なものが誰のものかという問題は残っています。情報を広く開示する時代にはなっています。しかし、法律など制度がどうであろうと、自分のものは自分で管理できなくてはいけません。診療データは、患者さんのものであるというのが原則、その中で患者さんにどのようにお返しするのかという部分で課題があるのだと思います。

山口理事長

 私も、自分の診療データですから、患者のものだと思うのですが、一つ難しいのが、自分のものなのに、理解できない部分が多いということです。やはり、きちんと理解して、読み解き方も分かって初めて、自分のものになるのだと思うのです。単に、「診療データはあなたのものですよ」と言われても、記号が並んでいるだけで、意味の分からないものというのが現状でしょう。

 25歳の時に卵巣がんになったのが、私の医療との出会いなのですが、その時に一番悔しかったのが、自分の診療データを知らせてもらえなかったことです。病名もそうでしたし、検査をしたのに結果も分からない。新しい薬を処方されて、それについて聞いても「あなたに必要な白い錠剤です」といった具合です。今では冗談のようなことがまかり通っていたのです。なぜ、私本人が自分の診療データを見ることができないのかと疑問でしたので、今はいい時代になりました。夢のような時代です。

 ただ、診療データを開示する時代になったからと言って、一般の人が、率先して自分のデータを手にして、読み解いて管理しようと思っているかというとそうではないと思います。医療者にとっては当たり前のことでも、患者からするとなかなか読み解けません。情報リテラシーというのも、同時に高めていかなければ、ダメだと思うのですけど、今、たくさんの医療情報の波の中で、溺れている人が増えています。

神野理事長

 がんという診断が付いた時に、ありとあらゆる治療法があります。我々、医療者は、ワンオブゼムとして扱いますが、患者さんは自分のことになると、ありとあらゆることを検索したり、いろんな人に聞いたりします。そうすると、あふれる情報の中で、道に迷うことがあるかもしれません。私の若いころの時代は、まずは家族を呼んで、「本人に言いますか」というところから始まります。本人に了解を得ずに、家族に話しました。そして、本人に隠していると、「私はがんではないのでしょうか」と本人から聞かれたりしました。そうすると、違いますよという嘘から始まっていました。今は、「あなたはがんですよ」と言った時点で、患者さんから、この症状はどうですか、この症状はどうで すかといっぱい聞かれます。私は、実は開示した方が、説明責任が出てくると思うのです。医師としては、開示しないで嘘をついていた方が楽だったかもしれませんね。

山口理事長

 そのような時代に私たち患者側は、情報が手に入れば、よりいい判断ができると思っていたのですが、時代が変わり、実際に情報が手に入るようになって、重要な決断を自分でしなくてはならないという自己決定が付いてくるということを、どうも忘れていたような気がします。

司会:神野理事長が当社のソリューション「CADA-BOX」を導入していただいた背景をお教えください。

神野理事長

 内閣府IT戦略本部に2011年8月、医療情報化に関するタスクフォースが設置されました。私も何度も呼ばれて話をしました。そこではすでに、パーソナルヘルスレコード(PHR)という考え方が出ていました。その時に私は、次の世代はPHRだと思ったのです。今、病病・病診連携とか、地域医療連携とか言って、たくさんの補助金をかけて、電子カルテを中心とした医療情報をつなげようとしています。しかし、2011年時点で考えていたのは、これからは介護や、生活の部分の情報連携も必要になってくるので、医療だけの病院と病院、病院と診療所だけのつながりでは済まないだろうということでした。しかし、全部つなげるとなったら、国家予算級のお金が必要になってきますし、医療と介護だけでも、使っている言葉が違っています。それらをつなげても果たして、互いにハッピーなのかという話も出てくると思っていました。

 病院など医療機関や施設をどんどんつなげると、セキュリティーの問題が必ず発生します。そこで患者さんや利用者本人に情報を集め、責任を持っていただいて、本人が管理する仕組みはありだなと2011年の段階で思っていました。しかし、なかなか実現できませんでした。技術的な問題などがあったからです。

 資金面では厚生労働省や総務省などの補助金で、PHRにチャレンジさせていただいたのですが、制約要件がたくさんあって、なかなか思うように動かすことができませんでした。何度も頓挫した後にMDVさんから「カルテコ」の話があり、飛びついたのです。私がMDVさんに申し上げていたのは、あくまで既製服にしてくださいということです。オーダーメイドで服をつくると高価になります。既製服の方が、安いのです。PHRでは標準化したものを広げていくのが、大きな流れになるので、コスト面で頓挫してしまうのではないかと懸念したからです。

山口理事長

 今、かかりつけ薬剤師・薬局が求められています。改正薬剤師法が2014年6月に施行され、薬剤師は「必要な情報を提供し、薬学的知見に基づく指導を行わなくてはならない」として服薬指導義務が明確になりました。

 ところが、薬局に持って行くのは、処方せんだけです。薬剤師は、病名も知らされません。検査データについては、最近は一部の医療機関が薬局に提供していますが、ほとんど知らされていません。そういうところに、いわゆるモバイル端末でもいいですから薬局に持って行って、きちんと薬剤師に把握してもらったらいいと思います。さらに、介護施設などと共有すれば、いろいろな面で無駄がなくなります。 受診している病院に検査画像を出してもらって、別の医療機関に行くと、また一から、うちの医療機関でのデータが必要なのです、と二重に検査をすることがまだまだ当たり前になっています。それを、当たり前ではないことにする必要があります。

神野理事長

 (ご自身の端末を見せながら)ここに、私の検査データが入っています。きのう血液検査をしました。信頼を置ける薬剤師さんには、私の検査データや画像データはこうですなどと見せると、薬剤師の薬学的知見に基づいた、服薬指導を受けることができると思うのです。

 さらに、コミュニケーションが生まれてきて、今の薬を飲んでも数値がなかなかよくならないだとか、やっぱり医師からの指示だけではなく、生活態度についても見直してみるとか、食生活もいろいろ考えたほうがいいのではないでしょうかといった、新たなコミュニケーションが生まれます。

 ところが、病院と薬局をつなげるという話になったら、これはお金もかかりますし、セキュリティーの問題も解決するのが大変です。しかし、患者さん自身が持っている情報を、薬剤師に見せる分には、病院の責任ではなくて、患者さんご本人の責任で見せるので問題は少なくなります。

 これまでは、肝臓の機能が悪いだとか、血糖値が高いだとかの話をした後に、血糖値の半年間の推移だとかを確認しようと思っても、ほとんどできませんでした。しかし、私のこの端末を見ると、過去の推移を折れ線グラフで確認できたりします。これを見て、次に、医療機関を受診するまでにどうにかしなきゃいけないだとか、がんばったりしますよね。

 「カルテコ」を使った診療データの共有化については、病院内で掲示をして広報をしていますが、患者さん全員にやってもらおうとは思っていません。自分のデータに関心がある人だけでいいのです。そういった意味で、これからは健診を受ける人たち、すなわち健康に関心がある人たちにも、紙でも結果をお知らせしますが、「カルテコ」のご案内を始めています。

司会:デメリットはありますか?

山口理事長

 患者さん一人ひとりの理解度が異なっていますので、きちんと分かっていない人が、言われるままに他人に見せてしまって、例えば、こんなところまで見せてしまったのかということで、トラブルが起きることがあるかもしれません。診療データをやみくもにほかの人に見せてはいけないということも知っておくことが必要です。情報の持つ意味を知ってもらうことが大事です。

 これは、患者さんと医療者の信頼関係にも関わってきますが、自分のカルテ情報を見たいですと言うと、医師などの医療者は身構えると思います。しかし、医療機関が率先して、診療データを返しますとすれば、抵抗感はないと思います。

神野理事長

 私の病院には医師が70人ぐらいいますが、導入に当たって当初は反対が出ると思ったのですが、誰一人として反対しませんでした。私の、新しいことに積極的にチャレンジするキャラクターもあったかもしれません。

 ちょうど現在、次年度の目標を立てているのですが、ある診療科のドクターの中からは、「カルテコ」を使ってもらう患者さんを増やすといった目標も出てきています。当然、ドクターは患者さんの病気を治したい。それが我々のミッションだからです。その治療の一助になると考えているのでしょう。

山口理事長

 COMLでは常々、患者と医療者が「協働」することが大事だとしています。協働とは、同じ目標に向かって歩む立場の異なる人がそれぞれの役割を果たし合うという意味です。協働という漢字に、その意味があると知って以来、こだわっています。医療も、医療者の努力だけでは治療効果が上がるわけでもなく、患者も自分の役割意識を持ってできる努力をすることが必要だからです。

 自分の診療データをしっかり把握していると、自分がやらなくてはいけないこと、患者である自分でも努力をすることで治療効果を上げることができるのだということを、より理解できると思うのです。それが、本当に自立した患者だと思います。

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