PHR世界の事情(1)ポルトガル篇

2019 年 6 月 26 日


東京医科歯科大医学部医学科4年生の小林崇希さん

日本の医学生が目の当たりにした、ポルトガルPHRの可能性
ー忘れられないエンリケ行政官(医師)の一言

 人が一生涯の健康・医療情報を自ら管理できるPHR(パーソナルヘルスレコード)について、世界の主要国では、2000年頃から国家プロジェクトとして医療 機関同士が情報連携するEHR(Electronic Health Record)を構築する動きが活発化し、その延長線上で個人の生活の質の維持・向上を目的として、PHRが発展しています。

 各国のPHRの種類は、それぞれの国で医療提供体制や保険制度などが異なるので千差万別ですが、比較的人口規模が小さい国は政府のシステムとして運用されています。

 南ヨーロッパのイベリア半島に位置するポルトガル。人口は日本の10分の1程度の約1030万人。国民には医療IDが付与されています。同国でPHR整備が本格的にスタートしたのが2010年。制度開始からまだ、10年経っていません。

 ポルトガルには、同国保健省の下部組織で、電子カルテといったIT技術を所管する「SPMS」と呼ぶ政府機関が運用するPHRネットワークがあります。国民は医療IDとパスワードを使って、そこにアクセスします。国民は自分の診療情報を確認できます。医師資格を持つ人には、診療情報にアクセスできるIDがあり、診療する患者の既往歴や検査結果などが把握できます。


エンリケ氏、「PHR運用までには法整備と関係者調整に尽力」

 東京医科歯科大(東京都文京区)医学部医学科4年生の小林崇希さんは、昨年夏に厚生労働省が開催したインターンシップに参加しました。そこで知り合った「SPMS」会長のマーティン・エンリケさんに誘われ、今年2月25日から2週間、ポルトガルのPHRを視察。先日帰国したので、お話を聞きました。

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 首都リスボンにあるエンリケさんの自宅に、ホームステイさせていただきました。エンリケさんには2週間、ずっと帯同して、PHRネットワークの立ち上げまでの苦労談などを聞かせていただきました。また、「SPMS」のスタッフに直接会って、PHRネットワークを運用する上での注意点なども教えていただきました。ポルトガルは、地域住民を診る「かかりつけ医」のいるプライマリーケアセンターを受診した後、病院にかかるのが一般的であることも知りました。
 
 2010年に立ち上がった「SPMS」がPHRネットワークを運用するまでには、法令を整備したり、関係者との調整をしたりするなど、エンリケさんは相当、苦労されたようです。

 「SPMS」という行政組織で陣頭指揮を執るエンリケさんは内科医。私が医師を目指す中で、現在、WHO(世界保健機関)の活動や公衆衛生、さらには医療制度に関心を持っているので、エンリケさんが話されるすべてが興味深かったです。エンリケさんがPHRネットワークを説明される中で、ポルトガルの医療における、PHRの意義を聞いたことがありました。

 とても印象に残っています。エンリケさんは、「医療はサービスなので、患者のデマンド(需要)と医療者のサプライ(供給)で成り立っています。患者が診療情報を容易に知ることができれば、医療リテラシーが向上し、それがデマンドの質の高まりにつながります。それに連れてサプライ、つまり医療者の質も高まるのです」というのです。

 ポルトガルのPHRを視察させていただき、とても有益でした。日本とポルトガルは、国の規模も違いますし、医療制度や医療提供体制の歴史も違うので簡単には比較できません。日本にポルトガルと同じようなPHRの仕組みは導入できないかもしれません。ただ、仕組みはよりシンプルなものの方が分かりやすくて、永続性があるのだろうなと感じました。
 
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 PHRについては、政府・自民党で本格的な議論が始まっています。内閣府の規制改革推進会議(大田弘子議長)の医療・介護ワーキンググループは、今年3月からデータヘルス改革におけるPHRをテーマに議論を開始。
 
 一方、自民党のデータヘルス推進特命委員会(委員長、塩崎恭久・元厚労相)の下部組織である「国民・患者視点のデータヘルスワーキンググループ」(主査・今枝宗一郎衆院議員)は今後、PHRについて議論をして、それを踏まえて委員会は5月に報告書をまとめる予定です。この国のPHRの行く末を占うだけに、目が離せそうもありません。

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