PHR 活用で患者参加型医療の実現を

2019 年 8 月 9 日


 人が一生涯の医療・健康情報を自ら管理できるPHR(パーソナルヘルスレコード)に関心が集まっています。今回は、乳がんと女性特有のがんのための患者会NPO法人「ブーゲンビリア」統括理事長の内田絵子さんに、患者さんが診療情報を共有することの意義やPHRへの期待などについてインタビューしました。

―内田絵子さんのご紹介―
 25年前にシンガポールで乳がん摘出手術、抗がん剤治療、乳房再建手術を受ける。帰国後、ブーゲンビリアの前身となる「内田絵子と女性の医療を考える会」を立ち上げ、2004年に同会をブーゲンビリアに改組。がん患者さんの話を聞く場を設けたり、行政などへの要請活動をしたりしている。がん体験者同士がピア(peer=仲間)として支え合う「ピアカウンセリング」に携わるピアサポーターの養成にも注力している。

――ブーゲンビリアを運営していて、患者さんが診療情報を持つことの必要性をお感じになりますか?

内田さん ブーゲンビリアでは、治療の選択や闘病生活に患者の声が反映され、また患者自身が治療の価値を知り、積極的に治療に参加する「患者参加型医療」の実現を目指して活動をしています。その意味でPHRの視点は重要だと考えます。PHRを活用することで医療は以下のように変わると考えています。

1  患者自身が健康状態を把握することができる
2  患者が積極的に治療に参加することができる
3  患者の情報を多職種と共有することで病を多角的に見てもらえる
4  正しい病名・処方薬・検査値の結果を知ることができる
5  治療方法の選択や決定権を持つのは患者ですので、診療情報を共有するの
  は当たり前の社会にならないといけないと思う
6  治療法や新薬が開発されているので、患者も病気を理解し主体的に意思
  決定する場面が増えていく
7  急性疾患・事故などの場面で緊急治療を受ける場合、患者が診療情報を持
  っていると命が助かるケースが出てくる
8  患者自身が診療情報や健康情報を自己管理することは患者の生活の質を向
  上させる
9  重複しない適切な医療を受けることによって医療費の適正化が図れる
10 医療費の無駄が省け、医療の質向上・効率化が図れる

――ご自身はシンガポールで乳がんの治療を受けられました。そこでは、患者中心の意思決定を支援し、患者の自立を支援する医療を受けられたとのことですが、どのような医療だったのですか?

内田さん シンガポールで受けた医療と医師への感謝と恩返しの気持ちで、帰国後に、ブーゲンビリアの前身となる患者会を立ち上げました。セカンドオピ二オンは主治医が勧めてくれました。主治医が、「治療には自信を持っていますが、別の医師に意見を聞いてみてごらんなさい。日本語でも聞きたいでしょう」と言ってくれたのです。そして、日本人医師に乳がんについてのレクチャーを受け、中国系シンガポーリアンの医師のセカンドオピニオンを受けました。

 また、インフォームドコンセント(IC)は夫と通訳の3人で臨みました。料金は高額でしたが、薬の効能効果と副作用、治療の意義などの情報提供と支援について、しっかり説明してくれました。“どんな質問にも答えますよ”的なフレンドリーな雰囲気の中で、乳がんに対して、にわか勉強で理解度は低かったのですが、気後れすることなくいろいろ話を聞けました。とてもゆったりとした雰囲気の時間でした。

 忘れられないエピソードがあります。抗がん剤の説明のために、まだ会ったことのなかった腫瘍内科の専門医が突然、入院中のベッドサイドに現れて「あなたのがんの顔つきが悪い」などと、その治療法を受けることの緊急性を強調するあまり、ストレートな物腰になりました。
 
 事態の深刻さに私がショックを受けて落ち込んでいると、主治医が駆けつけて、「(腫瘍内科の専門医の)紹介がまだでしたね。紹介前にいきなり驚かせて悪かったですね」と謝罪されました。

 これらの真摯な姿勢を通じて、人間の尊厳を大切にしているのだなと実感しました。医療は選ぶこともできると話してくれて、人生の選択の自由度を感じさせてくれました。

――乳がんの患者さんは外科手術の後にホルモン療法を始めて、それからの療養をどのように支えるかが大切だといいますが、PHRシステムにどのような工夫があればいいですか。服薬アドヒアランスにつながる仕掛けなどはありますか。

内田さん スマートフォンのアプリといった可視化ツールに患者の思いなどを記入するスペースがあるといいですね。医療者にとって価値のない記録でも、
患者は自分の思いや症状などを繰り返し記載し、次第に癒されていくことがあります。
 
 乳がんのホルモン療法は長期間続くのでPHRは自身の記録としての役割だけでなく、患者の“はけ口”としても意味があると思います。医療的な情報提供は簡潔で分かりやすくして、服薬アドヒアランスなどの設問はチェックだけで済むようにしてほしいですね。療養への励ましなどが入っているような工夫が欲しいです。

――今、医療基本法の制定に向け活動されています。ICの充実に、法制定の意義があると強調されていますが、その理由を教えてください。

内田さん 医療基本法がなぜ必要なのかは、なかなか患者に実感がありません。患者の尊厳を守るという観点で医療の基本にはICがあります。医師とのコミュニケーションがうまくいくと治療がスムーズにいくケースが多いように思います。逆に、うまくいかないと患者は不満を抱きます。コミュニケーションとICは同意語のように感じます。

 医師と患者のコミュニケーションの質は、医療そのものの質と密接に関係していると感じます。医師から患者への伝達ではなく、医師が患者の語りを傾聴することを通して、患者を受容するすることが大事です。医師と患者が協働する第一歩がICです。

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