PHR世界の事情(4)エストニア篇

2019 年 9 月 12 日


林知充さんのご紹介                  建築家。横浜国立大学工学部建築学科卒業、米ヴァージニア工科大学大学院修了。ニューヨークの建築設計事務所に2 年間勤務した後、2001年にエストニアに渡る。現在、建築設計事務所Hayashi-Grossschmidt Arhitektuur (ハヤシ・グロシュミット・アルヒテクトゥール )を共同主宰。2012年からタリン応用科学大学建築学部で教鞭を執り、現在、准教授。

PHR先進国エストニア、そこに住む建築家の林さんに聞いた

 人が一生涯の医療・健康情報を自ら管理できるPHR(パーソナルヘルスレコード)がすでに動き出している国があります。エストニアです。ロシアの隣国、バルト海に接する人口約130万人のこの国は早くから、情報の電子化に取り組むPHR先進国です。政府のポータルサイトである「Eesti.ee」の「Patient Portal(digilugu.ee)」を通じて、国民は自分の医療・健康情報を閲覧できます。この国に住む、日本人建築家の林知充さんにインタビューしました。

――エストニアで交通事故に遭いPHRを身近に感じられたそうですが、具体的にどのような体験をされたのですか。
 
 エストニアでは労働ビザで滞在する外国人も含めて、居住者一人ひとりにID番号が付与されています。私はこの国に住んではや18年、現在では永住権も持っています。
 
 3年前の12月初めに交通事故に遭いました。夜11時過ぎに帰宅中、点滅信号になっている交差点の横断歩道を横断中に飲酒運転の自動車に巻き込まれました。大腿骨と上腕骨を骨折し、救急搬送されました。手術後は病院に2週間入院し、退院後は4 ヵ月ほど、リハビリのために自宅近くのクリニックに通院を続けました。半年ほどで日常生活上は支障がないほど回復しましたが、いまでも金属プレート・ボルトが入ったままです。
 
 医師は、コンピューター画面で私のデータを把握しながら診察し、そして所見を記入します。「Patient Portal」の医師版のようなものを使っており、ID番号と暗証番号を使って個人認証をした後、カルテにアクセスします。
 
 私の場合は交通事故後の訴訟の手続きの中で、必要な資料を作成するためにPHRを使いました。弁護士に相談する際や、けがの重症度を証明するために第三者に診断書を作成してもらう際などに役立ちました。

――診療データを患者が持つことの意義をお感じになりましたか。
 
 エストニアは基本的に医療費が無料です。退院の際、病院に支払った金額は少なかったと思います。私は日々、エストニア語を使って生活していますので、病院の医師、看護師、そして同室のほか患者さんとコミュニケーションをする上で不自由さは感じませんでした。

 病院のスタッフの皆さんは日本のように、いわゆる痒い所に手が届く手厚いケアを心掛けているわけではなく、患者は自らの症状を訴え処置してもらうのが当たり前です。国民に自立を求めていく、良くも悪くもエストニアらしい環境でした。その意味で、診療データを持って自分の症状を他の人に説明するための手段としてPHRの有用性があるのかもしれません。

 退院後は、自宅近くのクリニックでリハビリを続けました。そこで感じたのは、病院とリハビリ専門医・クリニックの間の連携はそれほどはうまくいっていないということです。リハビリの治療内容とその効果、そしてどのような痛みや不自由さが残っているのかという部分はカルテには細かくは反映されていませんでした。他施設での治療内容などを十分に伝えるためには、患者自身が能動的に補足説明していく必要がありますね。

 医師に頼むと、コンピューターの画面上の記述をその場で見せてくれましたし、後から自分で所見を読むこともできるので、透明性が確立されているシステムだと思います。

――エストニアでPHRが普及したのはなぜでしょうか。

 電子処方せんが整備されているため、PHRで自身の診療データを確認するのが一般的になったのだと思います。かかりつけの医師(ファミリー・ドクター)に電話で診察してもらい、電子処方せんを発行してもらうこともできます。

 患者はそのまま薬局に赴き、必要な薬を購入することが可能です。


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