「がんトータルサポート相談」、きっかけはチリでの原体験
診断直後から事務職などが関与することが必要

2018 年 6 月 22 日

茨城県民生活協同組合 友愛記念病院
椿昌裕 副院長

 友愛記念病院(茨城県古河市、加藤奨一院長)は今年4月、「がんトータルサポート相談」をスタートさせた。がんと診断された直後から、事務職員を含めた多職種で患者を支援するのが目的だ。そこで指揮を執っているのが、副院長の椿昌裕氏。椿氏がこの取り組みを始めようとしたきっかけには、南米チリでの原体験がある。 国際協力機構(JICA)で開発途上国支援の一環で派遣された1994年、国立病院で関与したある患者が関係していた。

 地域がん診療連携拠点病院に指定されている友愛記念病院には、がん相談・支援センターがあり、看護師やMSW(社会福祉士)が中心となって、がん患者の闘病支援などをしている。「がんトータルサポート相談」はより早い段階、つまりがんと診断された直後から地域連携室の職員も加わり、患者の家庭環境などを十分に把握した上で、療養を円滑にしようというものだ。

 椿氏は「終末期になって初めて、家族と名乗る人が出てきて混乱することがあります。こういった状況をもっと早くから知っていたら、患者さんは残された時間を有意義に過ごせたかもしれないと思うときがあります」と語る。事務職員が積極的に「がんトータルサポート相談」に入り込むことで、その患者の背景をより詳しく把握できるというのだ。

 友愛記念病院にはメディカル・データ・ビジョン株式会社が開発した診療情報の一部を患者が保管・閲覧できる「カルテコ(カルテの倉庫の造語)」の機能を付帯した病院向けソリューション「CADA-BOX」が導入され、6月から稼働している。椿氏は、情報の共有化を推進するツールとして、「カルテコ」に期待している。

 

 


 

■「駐車場でばったり会った患者とその妻の目の訴えは今も忘れない」

 「がんトータルサポート相談」は副院長として椿氏が昨年秋、院長、副院長、看護部長、健診センター副部長の集まる会議で提案した。加藤奨一院長は、医療者、患者その家族が、互いの人間性を尊重し、同じ目線で協力し合うことが医療の理想型だと考えているだけに、すぐに後押ししてくれたという。

 椿氏が「がんトータルサポート相談」を思いついたのは、最近ではない。今をさかのぼること、20年余り前の原体験があった。1990年にピノチェト軍事独裁政権が終結してもなお、不安定な政情が続いていた1994年、チリの首都サンティアゴのサンボルハ国立病院で外科医として勤務し始めた。

 外科の専門医として、国内で脂が乗り始めた38歳だった。同病院は、低所得者層の治療を一手に引き受けていた。椿氏がある日、内科・外科合同カンファレンスに参加し、胃がん・腹膜播種の疑いがある40代の男性患者についての私見を述べたところ、開腹手術をすることが決まった。

 椿氏は、同僚のチリ人の内科医と外科医と共に、患者とその妻への告知の場面に立ち会うことになった。手術はチリ人外科医たちが執刀した。予想通り結果は、胃がん・腹膜播種で、状態は末期だった。

 それからしばらく後になるが、業務を終えて椿氏が駐車場に止めておいた車に乗り込もうとした時だった。妻に連れられた術後療養中の男性にばったり出会ったのだ。告知に立ち会ったので、その男性は椿氏のことを憶えていた。

 椿氏は、その時のことを今も鮮明に記憶しているという。
 「チリに派遣されたばかりで、スペイン語が十分に話せない時でした。しかし、その男性とその奥さんが、私の方を見て、“どうにかしてほしい”と必死に懇願していたのは伝わってきました。その目はものすごく強烈で、決して忘れません」

 医療の現場では、代替療法がある場合には、医療者と患者が情報共有した上で、合意形成して治療法を決定する、シェアード・デシジョン・メイキング(shared decision making)が一般的になっている。しかし、代替療法がなく、選択肢がないこともある。

 椿氏は、「医療者も、その治療しかないのに苦悩していることを、患者さんやその家族に分かってもらう場が必要」として、医療者と家族が一緒になって病気に立ち向かっているのだということを伝えるためにも、「がんトータルサポート相談」が機能することに期待している。

1994年、サンボルハ病院での現地外科医との腹腔鏡下胆嚢摘出術、術中写真(右から2人目が椿氏)


 

友愛記念病院1階受付に設置された「CADA‐BOX」の端末

 

 

 

 

 

 
 
 

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