業種別の有所見率も明らかに
年に一度の健康診断を受けた後に手にする健診結果。健診で医師は、「異常なし」「要再検査」「要治療」などと判定します。そのうち「異常なし」以外の人を、有所見者と言います。
健康診断を受けた人のうち、有所見者の占める割合が有所見率です。この有所見率が今、6割に急接近しています。有所見者が自主的に医療機関に行くのが望ましいのですが、職場などから再検査や治療を受けるようよう促されても、働き盛りの世代は忙しいことを理由に健康管理を後回しにするので病気を早期発見できなかったり、治療のタイミングを逃したりしてしまいます。
厚生労働省がまとめた定期健康診断実施結果によると、2021年の有所見率は58.7%となりました。過去からの推移を見ると1997年までは3割台でしたが、2008年に5割を超えました。それ以降、上昇傾向を続けています。
この定期健康診断実施結果は、常に50人以上が働いている事業所が実施する定期健康診断、いわゆる“職場の健診”の有所見率などを集計したもので、労働衛生行政の基礎資料となっています。事業所は、労働安全衛生法第66条に基づき、労働者に対して医師による健康診断を実施しなければなりません。一方で、労働者は事業所が実施する健診を受けなくてはならないとしています。
有所見率の上昇傾向は労働者の高齢化が影響していると言われています。2021年の検査項目別の有所見率では、血中脂質が33.0%と最も高くなりました。次いで、血圧が17.8%、肝機能検査が16.6%などとなっています。
業種別では鉱業、建設業などが上位に
定期健康診断実施結果では、業種別の有所見率も分かります。
「石炭鉱業」が88.9%で最も高く、次いで「土石採取」(78.3%)、「道路旅客」(74.9%)などとなっています。一方で、低いのが48.1%の「鉄道等」で、「他の運輸」(51.3%)、「輸送機械」(52.3%)の順番です。
東京都足立区で等潤病院などを運営する社会医療法人社団慈生会の伊藤雅史理事長は、医師として外来診療や手術をする傍ら、同院に併設する健診センター等潤で、健診受診者の判定もしています。たくさんの人を診る中で伊藤理事長は、「この地域の特性で建設業に従事する人を多く診ているが、有所見で要再検査などと判定するケースは少なくない。建設業は働く環境が厳しいという側面もあり、力仕事のストレスを発散するためか、酒を飲み過ぎたり塩分を取り過ぎたりするなど、食生活を起点にした生活習慣病の予備軍と見られる人が散見される」と話しています。実際、建設業に分類される「土木工事」の有所見率は70.9%、「建築工事」が61.9%などと高い水準となっています。
また、有所見と判定された人が周りに言われるのではなく自分の
意思で後日、再検査や治療にために医療機関を受診することが望ましいが、伊藤理事長は「例えば、聴力に異常があったとしても日常生活に大きな支障を来たさないため、医療機関を受診しようという発想にまでは至らないのだろう」と話しています。