• 「腎を知る3回目」―蛋白尿の意義

     日本透析医学会の調査によれば2022年に新規に維持透析を開始した患者さんの数は約3万7000人でした。その原因疾患をみてみると、糖尿病性腎症が38.7%、高血圧や動脈硬化が背景となる腎硬化症が18.7%でした。これは透析導入患者さんの半数以上が生活習慣に起因した疾患で腎不全を来し、透析導入になっていることを示しています。これらの患者さんの中には、生活習慣病を早期に治療を開始すれば、末期の腎不全とならず透析導入を回避できた患者さんもいたかもしれません。  寿命を全うするまで透析に至るのを防ぐためには、腎臓の異常を早期に察知することが重要です。それに欠かせない情報の1つが「蛋白尿」の有無です。「腎を知る-3回目」は「蛋白尿」についてお話したいと思います。  はじめに「尿蛋白」と「蛋白尿」という用語について触れたいと思います。「尿蛋白」は「尿中の蛋白」を意味し、「尿蛋白陽性」や「尿蛋白1+」などと表現します。一方、「蛋白尿」は「蛋白質を含んだ尿」を意味します。いずれも「尿中に蛋白質が含まれている状態」という意味では、ほぼ同じ状況を指していると考えて差し支えないと思います。  次に健康診断や人間ドック等において、蛋白尿を指摘されたときの考え方についてお話したいと思います。尿検査の尿蛋白陽性が出たとき、重要なのは尿蛋白が持続的に陽性か否かです。それは、腎臓疾患がない場合にも、尿蛋白が陽性になることがあるからです。その代表的な原因に発熱や運動があります。発熱しているときに、尿検査をすると尿蛋白が陽性になることは、臨床現場でもしばしば経験します。しかし、その尿蛋白陽性は一過性で、発熱がおさまり、しばらくしてから尿の再検査をすると異常がないということはよくあります。このため尿蛋白陽性となっても、過剰に心配しすぎず、体調の良い日に再検査することが重要です。  また、運動が原因で尿蛋白が陽性となることがあります。このため、尿検査の前には運動を控えておくほうが、無難かもしれません。さらに、体を立った姿勢や背中を反らせる姿勢をすることで蛋白が出ることもあり、これを起立性尿蛋白、または立位性蛋白尿といいます。日中の尿検査では尿蛋白が陽性なのに、早朝尿では尿蛋白は検出されないという場合は、運動性蛋白尿や起立性蛋白尿の可能性が高くなります。運動性蛋白尿や起立性蛋白尿は、生理的蛋白尿や良性蛋白尿と言われます。  しかし、採尿した時間帯に関係なく、繰り返し尿蛋白が陽性となる場合には、腎臓に何らかのトラブルが生じている「病的蛋白尿」の可能性が疑われます。病的蛋白尿は腎臓疾患による蛋白尿ですが、腎臓の中の病変部位により「糸球体性」と「尿細管性」に分類されます。腎臓の「糸球体」という部分は、血液を濾過して尿をつくる役割を担う部位です。腎臓の糸球体に炎症が生じダメージがあると、本来は尿中に出ないはずの蛋白質や赤血球が、糸球体の壁から漏れ出て、尿中に出てしまい、尿蛋白や尿潜血陽性として検出されることになります。  このため、尿蛋白が陽性でかつ、尿潜血反応も陽性の場合は、糸球体腎炎などの異常が起きている可能性があり、すみやかに腎臓専門医を受診するのが望ましい状況です。また、血尿がなくても一定量の尿蛋白が検出される場合にも腎臓専門医の受診が必要です。腎臓専門医を受診すると、さらに詳細な血液検査や尿検査から、腎臓のどこに問題があるかを調べることになります。また、腎臓の形態的な異常がないか画像検査も実施されます。そして、腎疾患をより精査する必要性がある場合には、腎生検という検査で腎臓の一部を採取し、病理学的に調べて腎疾患の詳細な診断をつけていくこともあります。  腎臓は肝臓と同様に沈黙の臓器です。腎臓疾患が進行するまで症状が出ないことが少なくありません。また、血液検査で異常値がなくても、腎臓に異常が潜んでいることもあります。その意味において、尿蛋白や尿潜血の検出は、早期に腎疾患の存在を知る上で、とても貴重な情報となります。ご存知の通り、腎臓はその障害が進行すると、末期の腎不全となり透析や腎移植が必要になってきます。そのような事態にならずに、寿命を全うするには、腎臓の機能を維持する必要があり、そのためには、腎臓のトラブルを早期に把握し、適切な治療や生活習慣の改善が重要になります。次回「腎を知る―第4回」では慢性腎臓病CKDについて解説する予定です。 蛋白尿の種類 生理的蛋白尿 (良性蛋白尿)機能性蛋白尿一過性:発熱・運動・寒冷・ストレス等 間欠的:遊走腎   起立性蛋白尿 (体位性蛋白尿)物理的な腎うっ血が原因とされる。 立位や体を反らせると尿蛋白陽性化。          病的蛋白尿糸球体性蛋白尿糸球体の障害による(以下は疾患例) ・急性糸球体腎炎 ・半月体形成性糸球体腎炎 ・膜性増殖性糸球体腎炎 ・巣状分節性糸球体硬化症 ・膜性腎症 ・微小変化型ネフローゼ症候群 ・糖尿病性腎症 ・ループス腎炎 尿細管性蛋白尿尿細管の低分子蛋白質の再吸収障害による ・間質性腎炎 ・Fanconi症候群オーバーフロー蛋白尿Bense Jones蛋白多発性骨髄腫 アミラーゼ急性膵炎 ミオグロビン横紋筋融解症・筋肉の損傷 ヘモグロビン溶血性疾患腎後性蛋白尿 尿路結石、尿路の腫瘍、尿路の炎症 【文献】 ・CKD診療ガイドライン2023 ・診療群別臨床検査のガイドライン2003 ・日本内科学会雑誌111巻3号P526-531.2022 ・メディックメディア社 year note2020 E-10

  • 【獣医師監修】犬の慢性腎不全ってどんな病気?~症状と原因、治療法について知ろう~

    「慢性腎不全で死亡する猫は多い」そんな話を、耳にしたことはないでしょうか。慢性腎不全は猫がなりやすい病気というイメージを持つ人も多いと思いますが、犬にとっても慢性腎不全は死因の上位に入るほどメジャーな病気です。 https://www.sbiprism.co.jp/column/column_60.html?MDV_clm ※外部サイトに遷移します ペットの健康状態をチェック!!「カルテコ」7日間無料お試し 【App Store】 【Google Play】

  • 「腎を知る3回目」―蛋白尿の意義

     日本透析医学会の調査によれば2022年に新規に維持透析を開始した患者さんの数は約3万7000人でした。その原因疾患をみてみると、糖尿病性腎症が38.7%、高血圧や動脈硬化が背景となる腎硬化症が18.7%でした。これは透析導入患者さんの半数以上が生活習慣に起因した疾患で腎不全を来し、透析導入になっていることを示しています。これらの患者さんの中には、生活習慣病を早期に治療を開始すれば、末期の腎不全とならず透析導入を回避できた患者さんもいたかもしれません。  寿命を全うするまで透析に至るのを防ぐためには、腎臓の異常を早期に察知することが重要です。それに欠かせない情報の1つが「蛋白尿」の有無です。「腎を知る-3回目」は「蛋白尿」についてお話したいと思います。  はじめに「尿蛋白」と「蛋白尿」という用語について触れたいと思います。「尿蛋白」は「尿中の蛋白」を意味し、「尿蛋白陽性」や「尿蛋白1+」などと表現します。一方、「蛋白尿」は「蛋白質を含んだ尿」を意味します。いずれも「尿中に蛋白質が含まれている状態」という意味では、ほぼ同じ状況を指していると考えて差し支えないと思います。  次に健康診断や人間ドック等において、蛋白尿を指摘されたときの考え方についてお話したいと思います。尿検査の尿蛋白陽性が出たとき、重要なのは尿蛋白が持続的に陽性か否かです。それは、腎臓疾患がない場合にも、尿蛋白が陽性になることがあるからです。その代表的な原因に発熱や運動があります。発熱しているときに、尿検査をすると尿蛋白が陽性になることは、臨床現場でもしばしば経験します。しかし、その尿蛋白陽性は一過性で、発熱がおさまり、しばらくしてから尿の再検査をすると異常がないということはよくあります。このため尿蛋白陽性となっても、過剰に心配しすぎず、体調の良い日に再検査することが重要です。  また、運動が原因で尿蛋白が陽性となることがあります。このため、尿検査の前には運動を控えておくほうが、無難かもしれません。さらに、体を立った姿勢や背中を反らせる姿勢をすることで蛋白が出ることもあり、これを起立性尿蛋白、または立位性蛋白尿といいます。日中の尿検査では尿蛋白が陽性なのに、早朝尿では尿蛋白は検出されないという場合は、運動性蛋白尿や起立性蛋白尿の可能性が高くなります。運動性蛋白尿や起立性蛋白尿は、生理的蛋白尿や良性蛋白尿と言われます。  しかし、採尿した時間帯に関係なく、繰り返し尿蛋白が陽性となる場合には、腎臓に何らかのトラブルが生じている「病的蛋白尿」の可能性が疑われます。病的蛋白尿は腎臓疾患による蛋白尿ですが、腎臓の中の病変部位により「糸球体性」と「尿細管性」に分類されます。腎臓の「糸球体」という部分は、血液を濾過して尿をつくる役割を担う部位です。腎臓の糸球体に炎症が生じダメージがあると、本来は尿中に出ないはずの蛋白質や赤血球が、糸球体の壁から漏れ出て、尿中に出てしまい、尿蛋白や尿潜血陽性として検出されることになります。  このため、尿蛋白が陽性でかつ、尿潜血反応も陽性の場合は、糸球体腎炎などの異常が起きている可能性があり、すみやかに腎臓専門医を受診するのが望ましい状況です。また、血尿がなくても一定量の尿蛋白が検出される場合にも腎臓専門医の受診が必要です。腎臓専門医を受診すると、さらに詳細な血液検査や尿検査から、腎臓のどこに問題があるかを調べることになります。また、腎臓の形態的な異常がないか画像検査も実施されます。そして、腎疾患をより精査する必要性がある場合には、腎生検という検査で腎臓の一部を採取し、病理学的に調べて腎疾患の詳細な診断をつけていくこともあります。  腎臓は肝臓と同様に沈黙の臓器です。腎臓疾患が進行するまで症状が出ないことが少なくありません。また、血液検査で異常値がなくても、腎臓に異常が潜んでいることもあります。その意味において、尿蛋白や尿潜血の検出は、早期に腎疾患の存在を知る上で、とても貴重な情報となります。ご存知の通り、腎臓はその障害が進行すると、末期の腎不全となり透析や腎移植が必要になってきます。そのような事態にならずに、寿命を全うするには、腎臓の機能を維持する必要があり、そのためには、腎臓のトラブルを早期に把握し、適切な治療や生活習慣の改善が重要になります。次回「腎を知る―第4回」では慢性腎臓病CKDについて解説する予定です。 蛋白尿の種類 生理的蛋白尿 (良性蛋白尿)機能性蛋白尿一過性:発熱・運動・寒冷・ストレス等 間欠的:遊走腎   起立性蛋白尿 (体位性蛋白尿)物理的な腎うっ血が原因とされる。 立位や体を反らせると尿蛋白陽性化。          病的蛋白尿糸球体性蛋白尿糸球体の障害による(以下は疾患例) ・急性糸球体腎炎 ・半月体形成性糸球体腎炎 ・膜性増殖性糸球体腎炎 ・巣状分節性糸球体硬化症 ・膜性腎症 ・微小変化型ネフローゼ症候群 ・糖尿病性腎症 ・ループス腎炎 尿細管性蛋白尿尿細管の低分子蛋白質の再吸収障害による ・間質性腎炎 ・Fanconi症候群オーバーフロー蛋白尿Bense Jones蛋白多発性骨髄腫 アミラーゼ急性膵炎 ミオグロビン横紋筋融解症・筋肉の損傷 ヘモグロビン溶血性疾患腎後性蛋白尿 尿路結石、尿路の腫瘍、尿路の炎症 【文献】 ・CKD診療ガイドライン2023 ・診療群別臨床検査のガイドライン2003 ・日本内科学会雑誌111巻3号P526-531.2022 ・メディックメディア社 year note2020 E-10

  • 【獣医師監修】犬の慢性腎不全ってどんな病気?~症状と原因、治療法について知ろう~

    「慢性腎不全で死亡する猫は多い」そんな話を、耳にしたことはないでしょうか。慢性腎不全は猫がなりやすい病気というイメージを持つ人も多いと思いますが、犬にとっても慢性腎不全は死因の上位に入るほどメジャーな病気です。 https://www.sbiprism.co.jp/column/column_60.html?MDV_clm ※外部サイトに遷移します ペットの健康状態をチェック!!「カルテコ」7日間無料お試し 【App Store】 【Google Play】