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良い睡眠で健康的な生活を送ろう(後編) 社会医療法人慈生会等潤病院 伊藤雅史 理事長・院長 前回は良い睡眠の重要性やチェック法、そして大きないびきの中に睡眠時無呼吸症候群が隠れていることを取り上げました。今回は良い睡眠をとるための秘訣をお伝えします。 良い睡眠には単に睡眠時間が長いだけでなく睡眠の質が重要です。睡眠の質を上げることは、疲労回復、ストレス解消、肥満防止、健康維持、美容効果など、様々なメリットがあります。何より、朝スッキリと目覚めて、昨日の疲れもすっかり取れて、日中眠たくなることもなく、一日中元気よく活動できることが一番です。 睡眠休養感という言葉があります。睡眠をとることで休養できた感覚です。2023年の国民・健康栄養調査によると、「ここ1か月間、睡眠で休養が取れている者の割合」は74.9%となり、前年(79.4%)から減少しています。睡眠休養感は2018年(78.3%)以来、8割を割り込んでいます。 睡眠の質を上げるには、生活習慣の改善が非常に重要です。生活習慣の中には、運動や入浴などのように直接的に睡眠の質を高めるものと、一日のリズムを調整する体内時計が正しく働くことで、良い睡眠習慣を獲得し間接的に睡眠の質の向上が得られるものがあります。 入浴は大切で、体を温め疲れを癒しリラックス効果が高まるのに加えて、入浴後に温まった体温が下がるタイミングが、寝つきにとって最良の時間帯となります。赤ちゃんは眠たくなると手足が温まるといわれてます。これは入眠に向けて体熱を発散しているのです。 具体的には、睡眠予定の1.5~2時間前に入浴するのがベストです。寝る前の夜食やカフェイン摂取はよくありませんし、寝酒は一時的に寝付きを促進しますが、その後は眠りが浅くなり、途中で目覚めることもあり、かえって睡眠休眠感が得られなくなってしまいます。 体内時計を整えるには、朝起きてカーテンを開けたり外出して朝の光を浴びたりして、日中は適度な運動を心がけます。夜ふかしや休日の寝坊、昼寝のし過ぎは体内時計のリズムを乱しますのでよくありません。いろいろ努力しても続く頑固な不眠では、隠れた病気が潜んでいることもあり、かかりつけ医によく相談しましょう。睡眠薬服用は安易に考えてはいけません。 厚生労働省は健康づくりのための睡眠ガイドを作成し、高齢者、成人、こどもそれぞれの推奨事項をまとめています。 https://www.mhlw.go.jp/content/001298243.pdf 【参考】 2023年の国民・健康栄養調査 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf
正しい睡眠習慣が身に付くメソッドを紹介した、「昼間の睡魔」を解消できる"正しい休日の眠り方"では、睡眠負債を返済するためのポイントを整理した。 仕事をしている日の昼間に眠気が出なくなったのであれば、それは「睡眠負債を解消できた」というバロメーターになりそうだ(もっとも、また寝不足が続けば負債を抱えることになるが……)。 そうなると次に気になるのは、“睡眠の質”を高めるためにはどうしたらいいか、ではないだろうか。睡眠の専門家である筑波大学教授で国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史氏に前編に引き続いて話を聞いた。 記事URLは以下↓ https://toyokeizai.net/articles/-/852692
良い睡眠で健康的な生活を送ろう(前編) 社会医療法人慈生会等潤病院 伊藤雅史 理事長・院長 睡眠は体を休めると同時に脳を休めるという大きな役割を果たしています。脳は重さからすると体重の2~2.5%位しかありませんが、エネルギー消費は全体の20%以上になります。大きな働きをする分、休息も必要で、それが睡眠の大きな役割となります。 近年、生活習慣の変化により国民全体の睡眠時間は減っていて、高齢になると早寝早起きで睡眠時間も少なくなる傾向があります。厚生労働省がまとめた2023年の国民・健康栄養調査によると、1日の平均睡眠時間は6時間以上7時間未満が最も多く、男性35.2%、女性33.9%でした。また6時間未満の人は男性38.5%、女性43.6%で、性別・年齢階級別にみると男性の30~50歳代、女性の40~60歳代では4割を超えています。 一般的に6.5~7.5時間の睡眠が長生きするという意味では最適で、それより短くても長すぎても死亡リスクが高まると言われています。睡眠は寝付いた最初のころに最も深く眠り、朝に近づくにつれて浅くなります。眠りにはリズムがあり、深い眠りと浅い眠りを約90分のサイクルで繰り返しています。そのサイクルの終わりには、レム睡眠といって高率に夢を見て覚醒時と同じくらい脳が活発に働いています。朝ほどレム睡眠の時間が長くなるため、朝方に夢を見て目覚めることが多いのです。 睡眠のチェックポイントは以下です。 スムーズな寝付き 前半の2時間はぐっすり眠れる 途中で目覚めてもすぐに入眠できる 後半に夢を見ても気持ちよく爽快に目覚める 日中に眠気がない(昼食後を除く) これら全てに当てはまれば睡眠の質は良いと言えます。 いびきは、飲酒、睡眠薬の服用、疲れ、小さい下あご、太い首周りなどが原因です。いびきは一時的ならば、大きなものでも問題はありません。しかし、毎晩のような大きないびき、急にいびきが止まり呼吸も10秒以上止まって大きな呼吸が再開する、日中の強い眠気などでは睡眠時無呼吸症候群の可能性があり、受診が必要です。
糖尿病、がんより多い⁉「精神疾患」-データで見る病気、やさしく解説- 四大疾病との比較から見る実態 「精神疾患なんて、自分とは関係ない」と思っていませんか?実は、精神疾患を抱える方の数は、がんや心疾患、糖尿病といった四大疾病を上回るほどです。その実態を見てみましょう。 日本における主な疾患の推定患者数を見てみると、精神疾患は約419万人とされます。(実際の有病者数は600万人以上と推計されています。)また、がんの推定患者数は約178万人、心疾患は約130万人、脳血管疾患は約110万人、糖尿病は約328万人と報告されています。こうしたデータから、精神疾患が実は非常に身近な問題であることが分かります。患者さんだけでなく、周囲の人々や社会全体にも影響を及ぼすのがこの病気の特徴です。では、「精神疾患」とは具体的にどのようなものなのでしょうか?ここからは、基本的な内容や種類、そして対処法について、お伝えしていきます。 精神疾患の基本的な理解 精神疾患とは何か? 精神疾患とは、気分、考え方、行動に影響を与える病気のことです。「心の問題」と捉えられがちですが、脳や神経系の働きにも深く関係しています。また、遺伝や環境(ストレスやトラウマ)、心理的要因が複雑に絡み合って発生します。精神疾患を経験する方は珍しくなく、日本では約5人に1人が生涯で一度は精神疾患にかかると言われています。 精神疾患の一般的な症状と特徴 精神疾患にはさまざまな症状があります。厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」資料などを参考に代表的な例を挙げてみます。 気分の変動 ずっと憂鬱だったり、急に高揚感や怒りを感じたりします。例:「ちょっとしたことで涙が出る」「急にイライラしてしまう」 思考の混乱 集中力が落ちたり、考えがまとまらなくなることがあります。例:「話している途中で何を言いたいか忘れてしまう」 行動の変化 動きすぎたり、逆に無気力になったりします。例:「朝起きられず、何もできない日が続く」「突然活発になりすぎる」 身体症状 不眠や食欲の変化、体重の増減などが起こります。例:「長く寝ても疲れが取れない」「食べ物に興味がなくなる」これらの症状は普通に生活していてもあったりします。ただ症状が長引いたり、日常生活に支障をきたす場合は、ぜひ専門家への相談してください。疾患数が多くなっていることもあって、社会的な理解も想像するよりも進んでいて、さまざまなサポートを選ぶことができます。ひとりで悩まず、早めに適切な受けることで、回復しやすくなります。 精神疾患の数の推移と現状 精神疾患は、現代社会のストレスや働き方の変化によって、多くの働く世代に影響を及ぼす病気とされています。仕事や家庭、経済的なプレッシャーなど、複数のストレス要因に直面しやすい働き盛りの世代では、精神的な負担が増加しやすく、さらに新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが広がったことで、社会的な孤立感や適応障害が増加しています。将来への不安や、育児や介護と仕事を両立させる「ダブルケア」によるストレスも無視できない課題です。こうした影響は、特に30代から50代の働き盛り世代で深刻化している現状があります。 精神疾患患者数の特徴 以下のデータからも、精神疾患患者数が年々増加していることがわかります。 精神疾患患者数(総数)は増加傾向にあり、1996年の約70万人から、2020年には約419万人(推計値)に達しました。この増加は、ストレス社会や環境の変化が大きな要因と考えられています。1996年から2020年までの間、精神疾患患者数はなんと約6倍に増加。特に働き盛りの20代~50代における影響が顕著です。この背景には、現代社会におけるストレスや生活環境の変化が深く関係しているとされています。さらに、2020年以降はコロナ禍の影響も加わり、精神的負担が増大しました。リモートワークや社会的孤立感が広がる中で、若い世代を中心に新たな精神疾患の症状が目立つようになっています。 精神的な健康を守るのは、外科的なわかりやすい症状がなく、まわりから見つかりにくいため、自身のヘルスケアが重要です。 精神疾患の分布データ 精神疾患の中でも特に多い疾患について、患者数のデータを基にご紹介します。 精神疾患の中でも、各疾患の患者数には大きな差があります。うつ病は約112万人と最も多く、全体の26.7%を占めています。不安障害が続き、約100万人で23.8%を占める状況です。統合失調症は約77万人で全体の18.4%、パニック障害は約30万人で7.1%、強迫性障害は約15万人で3.6%、双極性障害は約12万人(2.9%)と、これら6つの疾患だけで合計約346万人に上り、全体の82.6%を占めています。残りの17.4%は、認知症や摂食障害、睡眠障害、発達障害などの疾患が含まれます。 主要な精神疾患の種類 うつ病 うつ病は「心の風邪」とも呼ばれるほど一般的な病気です。誰でもかかる可能性があります。 特徴的な症状●自己否定的な思考:「何をしても無意味だ」と感じることが多い。●極度の疲労感:どれだけ休んでも疲れが取れない。●他人と距離を置きたくなる孤立感:友人や家族との連絡を避けてしまう。 治療法抗うつ薬や認知行動療法が用いられます。 双極性障害 躁状態(テンションが高い時期)と抑うつ状態(落ち込む時期)を繰り返す病気です。 特徴的な症状●躁状態:エネルギーが溢れ、無計画な行動を取ることも。●抑うつ状態:物事への興味を失い、何もやる気が起きなくなる。 治療法気分安定薬や生活リズムの安定が効果的です。 統合失調症 統合失調症は、現実との境界が曖昧になる症状が特徴の精神疾患です。 特徴的な症状●幻覚:現実には存在しない音や声を聞く。●妄想:周囲が自分に危害を加えようとしていると感じる。●思考の混乱:考えがまとまらなくなり、話が支離滅裂になることがある。 治療法抗精神病薬が治療の中心であり、必要に応じて心理社会的支援もあります。 不安障害 不安障害は、過剰な不安や恐怖を感じる病気の総称です。 特徴的な症状●日常生活の中で強い不安を抱く。●人前での発言や行動が極端に苦痛に感じられる。●心拍数の上昇や息苦しさを感じることがある。 治療法薬物療法や認知行動療法が用いられます。 パニック障害 突然の強い不安や恐怖を感じ、身体的な症状が現れる病気です。 特徴的な症状●パニック発作:突然の息苦しさや動悸、めまいを伴う発作が起こる。●発作への不安から、外出を避けるようになることがある。 治療法抗不安薬や抗うつ薬を用いるほか、暴露療法も効果的です。 強迫性障害(OCD) 強迫性障害は、繰り返し浮かぶ不安な考え(強迫観念)と、それを解消するための行動(強迫行為)が特徴です。 特徴的な症状●強迫観念:「手が汚れているのではないか」などの不安が頭から離れない。●強迫行為:何度も手を洗う、物を特定の順番に並べるなどを繰り返す。 治療法抗うつ薬や認知行動療法、特に曝露反応妨害法が有効です。 精神疾患に対する対処法とサポート 自分でできる対処法 症状の改善や予防には、自律神経のバランスを整えることが重要です。現代では、スマホアプリなどを使って手軽に体調を管理する方法もあります。その一つが「カルテコ」のような、自律神経を測定できるアプリの活用です。 https://karteco.jp 具体的な対処法 日々の状態を把握する自分のストレスや疲労度を把握することが第一歩です。例えば、スマホアプリを活用して自律神経の状態を記録すれば、体調の変化を客観的に追うことができます。ダイエットも貯金も健康もまずは現在の状況の把握からはじめましょう!! 声を出して気分をリフレッシュ心が疲れていると感じたら、お風呂で歌を歌ったり、ポジティブな言葉を声に出してみるのも効果的です。ストレス解消にはシンプルな行動が意外に役立ちます。 軽い運動を取り入れる散歩やストレッチなどの軽い運動は、自律神経を整える効果があります。アプリで記録を取れば、運動の効果を視覚的に確認することもできますが、記録をつける習慣が負担になる場合は、意識的に運動するだけでも十分です。駅までちょっと大股で歩く、階段を使ってみるなど身近なところから始めましょう!! 深呼吸でリラックス腹式呼吸や瞑想は簡単にできるストレス解消法です。特に、息を長く吐くことで副交感神経が優位になり、リラックス効果が得られます。 自然と触れ合う公園を散歩したり、窓を開けて新鮮な空気を吸うことも効果的です。心身が落ち着く感覚を意識しながら行動すると、さらにリフレッシュ感が高まります。 専門家に相談するタイミング 症状が長期間続いたり、生活に支障をきたす場合には、専門家の助けを求めることが大切です。アプリで記録したデータがあれば、それを参考に相談することもできますが、特別な記録がなくても大丈夫です。オンライン診療などの手軽な方法もありますので、気軽に利用しましょう。 精神疾患数は非常に多い 精神疾患というと印象として非常に難しく考える方もいらっしゃいます。ですがこのコラムでも書いてきましたが、多くの方が罹患し、珍しい疾患ではありません。またさまざまな対処法もあります。「なんかおかしいな」と思ったら、心の風邪ぐらいの気持ちで自分に合った方法を見つけることが大切です。日々の生活に少しずつ自分をいたわる習慣を取り入れ、心と体の健康を守っていきましょう。 【参考文献】内閣府「令和2年版障害者白書」参考資料 障害者の状況厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」資料厚生労働省「患者調査」データ厚生労働省「第7次医療計画の指標に係る現状について」日本うつ病学会「うつ病治療ガイドライン」日本うつ病学会「双極性障害ガイドライン」上記の資料などを基に編集しました。
医師 加藤 開一郎 残暑が一段落し、寝苦しい夜から解放されつつある今日この頃です。今回は眠りやすさと自律神経の関係について、より良い睡眠を目指すためのアクションの観点からお話ししたいと思います。 自律神経は呼吸、循環、体温、消化、代謝、分泌、生殖など、生体維持のための基本かつ重要な役割を担います。自律神経は交感神経と副交感神経に分かれており、自律神経に支配される臓器の活動性は、交感神経と副交感神経の興奮レベルのバランスによって制御されています。覚醒中は活発な精神活動や身体活動を支えるため、交感神経の活動が優位となります。 一方、睡眠中は脳や身体の休息のため、副交感神経の活動が優位になります。特に睡眠脳波で判別するノンレム睡眠(non-REM sleep)※では副交感神経の活動が優位となり、脳を休めるように働きます。 眠りの時間が近づくと、自律神経は睡眠に先行する形で機能が変化することが分かっています。睡眠に問題のない健常成人では、消灯60分前から副交感神経の活動が優位になり、消灯30分前から交感神経の活動が低下することが報告されています。このため、自然の良眠を得るために、私たちは自律神経の機能変化を阻害しないように意識する必要があります。 ところで、睡眠障害は、身体機能、精神機能のほか、行動や認知など多方面にマイナスの影響を及ぼします。特に睡眠障害による精神的影響は重要で、睡眠不足は人の不安感を高め、うつ的な気分を招きかねません。人は不安感が強くなると、心身の緊張状態が高まり、より一層眠れなくなり、より深刻な睡眠障害に陥る危険性があります。このため、日頃から良質な睡眠がとれるように意識していく必要があります。 理想的な睡眠とは、すぐに眠れる、ぐっすり深く眠れる、すっきり目覚められる睡眠と言われます。しかし、筆者は何よりもまずは眠りに入れることが最も重要だと考えています。そのためにも副交感神経が優位に活動するようにすることが、とても重要です。下に睡眠に影響しうる要素を挙げました。 良眠を得るためのアプローチは大きく2つあり、1つは眠る環境である睡眠環境を最適化することです。そして、もう1つは眠りやすい状態に体を整えることです。そして、この2つのアプローチは、たとえ睡眠障害で薬剤を服用していたとしても、その服薬量を減量、中止していくためにも、ぜひ一度チェックしていただければと思います。【図1.睡眠に影響する因子】<睡眠環境> <生体因子>□光(照明) □生体リズム(生活リズム)□音 □日中の過ごし方□温度 □精神的ストレス□湿度 □適度な運動(筋肉疲労)□香り □血糖値□寝具 □疾患管理 ■快適な就寝環境をつくる ここからは睡眠を得るために、まずは自身が眠る環境が、睡眠に適した環境かどうかを確認する必要があります。睡眠環境に関する研究では、暑くも寒くもない温度、すなわち中性温度のときに、最も安定した睡眠が得られることが報告されています。このため、眠る部屋の温度、湿度が快適な設定になっているかどうかは、睡眠にとても重要な要素です。しかし、室温以上に大切なのは寝具内部で、睡眠中に体を包み込む寝具内部の温度や湿度が快適である必要があります。 次に就寝に向けて、室内の照明にも注意を払う必要があります。脳内で催眠作用をもつメラトニンは、昼間に低く、夜に高くなる傾向があります。メラトニンは光の影響を受けやすく、メラトニン分泌が増える夜でも、強い光によりメラトニン分泌は低下し、覚醒方向に傾いてしまうことがあります。 このため就寝前は照明の色と光の強さに配慮が必要で、照明の色は色温度3000ケルビン(電球色と言われる黄色からオレンジがかった色)、光の強さは照度30ルクスという輝度でより速やかに入眠できるとされています。このため、白色の室内照明からいきなり就寝するのではなく、眠りに向けて徐々に照明を暖色系に切り替え、光の強さを弱めていくことで睡眠の準備に入るのが理想かもしれません。 また、寝床や寝床周りの環境も大切です。寝床の周囲に高い家具が置かれていると、脳は無意識のうちに倒れてこないかと心配になり、入眠に向けた精神的リラックス状態が阻害されかねません。高齢者や高齢の方を介護している方は、夜中にトイレに行き来する動線の安全確保も重要で、夜中に転んで怪我をしない状況にしておくことも、入眠前の不安や緊張を減らしてくれると考えます。 寝室の臭いも忘れてはならない重要な要素で、不快な臭いにを除去しておくことはもちろんですが、心地よさを感じる香りを利用することも検討に値すると思います。アロマオイルなどの芳香成分が、入眠時に主体となる副交感神経の活性を高め、睡眠に有効であることがこれまでの研究で示されています。 ■眠りやすい体のコンディションをつくる ここからは眠りやすい体のコンディションづくりについてお話します。カフェインを取り過ぎない、寝酒をしない、夜にスマートフォンを見ないなどの生活上の注意点は、皆さんがすでに耳にされたことがあるかと思いますので、ここでは詳述は省略します。その代わりに、血糖の低下が睡眠の妨げになりうることをお伝えし、今回のコラムを締めくくりたいと思います。 就寝前の夜食や夜中の間食は、肥満や朝食の⽋食、体内時計の後退などの健康へのマイナス影響が指摘されています。その一方、夕食を食べてから就寝までの時間が長い場合、あるいは夕食を終えてから寝るまでの活動量が多い場合には、それなりのカロリー消費があるため、就寝時刻に血糖が低めになっている場合もあります。 また、ダイエットを目的に過度に炭水化物を減らした夕食を摂取している場合にも就寝時の血糖の低さが懸念されます。就寝時の空腹状態は、交感神経の刺激を招き、心身の緊張が高まり睡眠に入る方向とは真逆の状態となります。 このため、睡眠時の過度な空腹を避けることも良眠を得る上で大切な要素だと考えます。このため、肥満や朝の欠食につながらない程度で、睡眠前に軽食(特に炭水化物)を取ることも睡眠の助けになることがあります。 【引用参考文献】 豊浦麻記子ら.概日リズム・睡眠と自律神経機能.脳と発達54巻6号P311-316.2022年 中村 勤. 睡眠と寝具の快適性. 線維と工業64巻12号P414-418.2008年 0801391,繊維学会ファイバ12月号/4-特集-中村 (jst.go.jp) 北堂真子.良質な睡眠のための環境づくり.バイオメカニズム29巻4号P194-198.2005年 ja (jst.go.jp) 睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン 睡眠薬の適正使用ガイドライン_睡眠学会Online版_140828改訂 (jssr.jp) 健康づくりのための睡眠ガイド2023 001181265.pdf (mhlw.go.jp) e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-048.html
良い睡眠で健康的な生活を送ろう(後編) 社会医療法人慈生会等潤病院 伊藤雅史 理事長・院長 前回は良い睡眠の重要性やチェック法、そして大きないびきの中に睡眠時無呼吸症候群が隠れていることを取り上げました。今回は良い睡眠をとるための秘訣をお伝えします。 良い睡眠には単に睡眠時間が長いだけでなく睡眠の質が重要です。睡眠の質を上げることは、疲労回復、ストレス解消、肥満防止、健康維持、美容効果など、様々なメリットがあります。何より、朝スッキリと目覚めて、昨日の疲れもすっかり取れて、日中眠たくなることもなく、一日中元気よく活動できることが一番です。 睡眠休養感という言葉があります。睡眠をとることで休養できた感覚です。2023年の国民・健康栄養調査によると、「ここ1か月間、睡眠で休養が取れている者の割合」は74.9%となり、前年(79.4%)から減少しています。睡眠休養感は2018年(78.3%)以来、8割を割り込んでいます。 睡眠の質を上げるには、生活習慣の改善が非常に重要です。生活習慣の中には、運動や入浴などのように直接的に睡眠の質を高めるものと、一日のリズムを調整する体内時計が正しく働くことで、良い睡眠習慣を獲得し間接的に睡眠の質の向上が得られるものがあります。 入浴は大切で、体を温め疲れを癒しリラックス効果が高まるのに加えて、入浴後に温まった体温が下がるタイミングが、寝つきにとって最良の時間帯となります。赤ちゃんは眠たくなると手足が温まるといわれてます。これは入眠に向けて体熱を発散しているのです。 具体的には、睡眠予定の1.5~2時間前に入浴するのがベストです。寝る前の夜食やカフェイン摂取はよくありませんし、寝酒は一時的に寝付きを促進しますが、その後は眠りが浅くなり、途中で目覚めることもあり、かえって睡眠休眠感が得られなくなってしまいます。 体内時計を整えるには、朝起きてカーテンを開けたり外出して朝の光を浴びたりして、日中は適度な運動を心がけます。夜ふかしや休日の寝坊、昼寝のし過ぎは体内時計のリズムを乱しますのでよくありません。いろいろ努力しても続く頑固な不眠では、隠れた病気が潜んでいることもあり、かかりつけ医によく相談しましょう。睡眠薬服用は安易に考えてはいけません。 厚生労働省は健康づくりのための睡眠ガイドを作成し、高齢者、成人、こどもそれぞれの推奨事項をまとめています。 https://www.mhlw.go.jp/content/001298243.pdf 【参考】 2023年の国民・健康栄養調査 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf
正しい睡眠習慣が身に付くメソッドを紹介した、「昼間の睡魔」を解消できる"正しい休日の眠り方"では、睡眠負債を返済するためのポイントを整理した。 仕事をしている日の昼間に眠気が出なくなったのであれば、それは「睡眠負債を解消できた」というバロメーターになりそうだ(もっとも、また寝不足が続けば負債を抱えることになるが……)。 そうなると次に気になるのは、“睡眠の質”を高めるためにはどうしたらいいか、ではないだろうか。睡眠の専門家である筑波大学教授で国際統合睡眠医科学研究機構長の柳沢正史氏に前編に引き続いて話を聞いた。 記事URLは以下↓ https://toyokeizai.net/articles/-/852692
良い睡眠で健康的な生活を送ろう(前編) 社会医療法人慈生会等潤病院 伊藤雅史 理事長・院長 睡眠は体を休めると同時に脳を休めるという大きな役割を果たしています。脳は重さからすると体重の2~2.5%位しかありませんが、エネルギー消費は全体の20%以上になります。大きな働きをする分、休息も必要で、それが睡眠の大きな役割となります。 近年、生活習慣の変化により国民全体の睡眠時間は減っていて、高齢になると早寝早起きで睡眠時間も少なくなる傾向があります。厚生労働省がまとめた2023年の国民・健康栄養調査によると、1日の平均睡眠時間は6時間以上7時間未満が最も多く、男性35.2%、女性33.9%でした。また6時間未満の人は男性38.5%、女性43.6%で、性別・年齢階級別にみると男性の30~50歳代、女性の40~60歳代では4割を超えています。 一般的に6.5~7.5時間の睡眠が長生きするという意味では最適で、それより短くても長すぎても死亡リスクが高まると言われています。睡眠は寝付いた最初のころに最も深く眠り、朝に近づくにつれて浅くなります。眠りにはリズムがあり、深い眠りと浅い眠りを約90分のサイクルで繰り返しています。そのサイクルの終わりには、レム睡眠といって高率に夢を見て覚醒時と同じくらい脳が活発に働いています。朝ほどレム睡眠の時間が長くなるため、朝方に夢を見て目覚めることが多いのです。 睡眠のチェックポイントは以下です。 スムーズな寝付き 前半の2時間はぐっすり眠れる 途中で目覚めてもすぐに入眠できる 後半に夢を見ても気持ちよく爽快に目覚める 日中に眠気がない(昼食後を除く) これら全てに当てはまれば睡眠の質は良いと言えます。 いびきは、飲酒、睡眠薬の服用、疲れ、小さい下あご、太い首周りなどが原因です。いびきは一時的ならば、大きなものでも問題はありません。しかし、毎晩のような大きないびき、急にいびきが止まり呼吸も10秒以上止まって大きな呼吸が再開する、日中の強い眠気などでは睡眠時無呼吸症候群の可能性があり、受診が必要です。
糖尿病、がんより多い⁉「精神疾患」-データで見る病気、やさしく解説- 四大疾病との比較から見る実態 「精神疾患なんて、自分とは関係ない」と思っていませんか?実は、精神疾患を抱える方の数は、がんや心疾患、糖尿病といった四大疾病を上回るほどです。その実態を見てみましょう。 日本における主な疾患の推定患者数を見てみると、精神疾患は約419万人とされます。(実際の有病者数は600万人以上と推計されています。)また、がんの推定患者数は約178万人、心疾患は約130万人、脳血管疾患は約110万人、糖尿病は約328万人と報告されています。こうしたデータから、精神疾患が実は非常に身近な問題であることが分かります。患者さんだけでなく、周囲の人々や社会全体にも影響を及ぼすのがこの病気の特徴です。では、「精神疾患」とは具体的にどのようなものなのでしょうか?ここからは、基本的な内容や種類、そして対処法について、お伝えしていきます。 精神疾患の基本的な理解 精神疾患とは何か? 精神疾患とは、気分、考え方、行動に影響を与える病気のことです。「心の問題」と捉えられがちですが、脳や神経系の働きにも深く関係しています。また、遺伝や環境(ストレスやトラウマ)、心理的要因が複雑に絡み合って発生します。精神疾患を経験する方は珍しくなく、日本では約5人に1人が生涯で一度は精神疾患にかかると言われています。 精神疾患の一般的な症状と特徴 精神疾患にはさまざまな症状があります。厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」資料などを参考に代表的な例を挙げてみます。 気分の変動 ずっと憂鬱だったり、急に高揚感や怒りを感じたりします。例:「ちょっとしたことで涙が出る」「急にイライラしてしまう」 思考の混乱 集中力が落ちたり、考えがまとまらなくなることがあります。例:「話している途中で何を言いたいか忘れてしまう」 行動の変化 動きすぎたり、逆に無気力になったりします。例:「朝起きられず、何もできない日が続く」「突然活発になりすぎる」 身体症状 不眠や食欲の変化、体重の増減などが起こります。例:「長く寝ても疲れが取れない」「食べ物に興味がなくなる」これらの症状は普通に生活していてもあったりします。ただ症状が長引いたり、日常生活に支障をきたす場合は、ぜひ専門家への相談してください。疾患数が多くなっていることもあって、社会的な理解も想像するよりも進んでいて、さまざまなサポートを選ぶことができます。ひとりで悩まず、早めに適切な受けることで、回復しやすくなります。 精神疾患の数の推移と現状 精神疾患は、現代社会のストレスや働き方の変化によって、多くの働く世代に影響を及ぼす病気とされています。仕事や家庭、経済的なプレッシャーなど、複数のストレス要因に直面しやすい働き盛りの世代では、精神的な負担が増加しやすく、さらに新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが広がったことで、社会的な孤立感や適応障害が増加しています。将来への不安や、育児や介護と仕事を両立させる「ダブルケア」によるストレスも無視できない課題です。こうした影響は、特に30代から50代の働き盛り世代で深刻化している現状があります。 精神疾患患者数の特徴 以下のデータからも、精神疾患患者数が年々増加していることがわかります。 精神疾患患者数(総数)は増加傾向にあり、1996年の約70万人から、2020年には約419万人(推計値)に達しました。この増加は、ストレス社会や環境の変化が大きな要因と考えられています。1996年から2020年までの間、精神疾患患者数はなんと約6倍に増加。特に働き盛りの20代~50代における影響が顕著です。この背景には、現代社会におけるストレスや生活環境の変化が深く関係しているとされています。さらに、2020年以降はコロナ禍の影響も加わり、精神的負担が増大しました。リモートワークや社会的孤立感が広がる中で、若い世代を中心に新たな精神疾患の症状が目立つようになっています。 精神的な健康を守るのは、外科的なわかりやすい症状がなく、まわりから見つかりにくいため、自身のヘルスケアが重要です。 精神疾患の分布データ 精神疾患の中でも特に多い疾患について、患者数のデータを基にご紹介します。 精神疾患の中でも、各疾患の患者数には大きな差があります。うつ病は約112万人と最も多く、全体の26.7%を占めています。不安障害が続き、約100万人で23.8%を占める状況です。統合失調症は約77万人で全体の18.4%、パニック障害は約30万人で7.1%、強迫性障害は約15万人で3.6%、双極性障害は約12万人(2.9%)と、これら6つの疾患だけで合計約346万人に上り、全体の82.6%を占めています。残りの17.4%は、認知症や摂食障害、睡眠障害、発達障害などの疾患が含まれます。 主要な精神疾患の種類 うつ病 うつ病は「心の風邪」とも呼ばれるほど一般的な病気です。誰でもかかる可能性があります。 特徴的な症状●自己否定的な思考:「何をしても無意味だ」と感じることが多い。●極度の疲労感:どれだけ休んでも疲れが取れない。●他人と距離を置きたくなる孤立感:友人や家族との連絡を避けてしまう。 治療法抗うつ薬や認知行動療法が用いられます。 双極性障害 躁状態(テンションが高い時期)と抑うつ状態(落ち込む時期)を繰り返す病気です。 特徴的な症状●躁状態:エネルギーが溢れ、無計画な行動を取ることも。●抑うつ状態:物事への興味を失い、何もやる気が起きなくなる。 治療法気分安定薬や生活リズムの安定が効果的です。 統合失調症 統合失調症は、現実との境界が曖昧になる症状が特徴の精神疾患です。 特徴的な症状●幻覚:現実には存在しない音や声を聞く。●妄想:周囲が自分に危害を加えようとしていると感じる。●思考の混乱:考えがまとまらなくなり、話が支離滅裂になることがある。 治療法抗精神病薬が治療の中心であり、必要に応じて心理社会的支援もあります。 不安障害 不安障害は、過剰な不安や恐怖を感じる病気の総称です。 特徴的な症状●日常生活の中で強い不安を抱く。●人前での発言や行動が極端に苦痛に感じられる。●心拍数の上昇や息苦しさを感じることがある。 治療法薬物療法や認知行動療法が用いられます。 パニック障害 突然の強い不安や恐怖を感じ、身体的な症状が現れる病気です。 特徴的な症状●パニック発作:突然の息苦しさや動悸、めまいを伴う発作が起こる。●発作への不安から、外出を避けるようになることがある。 治療法抗不安薬や抗うつ薬を用いるほか、暴露療法も効果的です。 強迫性障害(OCD) 強迫性障害は、繰り返し浮かぶ不安な考え(強迫観念)と、それを解消するための行動(強迫行為)が特徴です。 特徴的な症状●強迫観念:「手が汚れているのではないか」などの不安が頭から離れない。●強迫行為:何度も手を洗う、物を特定の順番に並べるなどを繰り返す。 治療法抗うつ薬や認知行動療法、特に曝露反応妨害法が有効です。 精神疾患に対する対処法とサポート 自分でできる対処法 症状の改善や予防には、自律神経のバランスを整えることが重要です。現代では、スマホアプリなどを使って手軽に体調を管理する方法もあります。その一つが「カルテコ」のような、自律神経を測定できるアプリの活用です。 https://karteco.jp 具体的な対処法 日々の状態を把握する自分のストレスや疲労度を把握することが第一歩です。例えば、スマホアプリを活用して自律神経の状態を記録すれば、体調の変化を客観的に追うことができます。ダイエットも貯金も健康もまずは現在の状況の把握からはじめましょう!! 声を出して気分をリフレッシュ心が疲れていると感じたら、お風呂で歌を歌ったり、ポジティブな言葉を声に出してみるのも効果的です。ストレス解消にはシンプルな行動が意外に役立ちます。 軽い運動を取り入れる散歩やストレッチなどの軽い運動は、自律神経を整える効果があります。アプリで記録を取れば、運動の効果を視覚的に確認することもできますが、記録をつける習慣が負担になる場合は、意識的に運動するだけでも十分です。駅までちょっと大股で歩く、階段を使ってみるなど身近なところから始めましょう!! 深呼吸でリラックス腹式呼吸や瞑想は簡単にできるストレス解消法です。特に、息を長く吐くことで副交感神経が優位になり、リラックス効果が得られます。 自然と触れ合う公園を散歩したり、窓を開けて新鮮な空気を吸うことも効果的です。心身が落ち着く感覚を意識しながら行動すると、さらにリフレッシュ感が高まります。 専門家に相談するタイミング 症状が長期間続いたり、生活に支障をきたす場合には、専門家の助けを求めることが大切です。アプリで記録したデータがあれば、それを参考に相談することもできますが、特別な記録がなくても大丈夫です。オンライン診療などの手軽な方法もありますので、気軽に利用しましょう。 精神疾患数は非常に多い 精神疾患というと印象として非常に難しく考える方もいらっしゃいます。ですがこのコラムでも書いてきましたが、多くの方が罹患し、珍しい疾患ではありません。またさまざまな対処法もあります。「なんかおかしいな」と思ったら、心の風邪ぐらいの気持ちで自分に合った方法を見つけることが大切です。日々の生活に少しずつ自分をいたわる習慣を取り入れ、心と体の健康を守っていきましょう。 【参考文献】内閣府「令和2年版障害者白書」参考資料 障害者の状況厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」資料厚生労働省「患者調査」データ厚生労働省「第7次医療計画の指標に係る現状について」日本うつ病学会「うつ病治療ガイドライン」日本うつ病学会「双極性障害ガイドライン」上記の資料などを基に編集しました。
医師 加藤 開一郎 残暑が一段落し、寝苦しい夜から解放されつつある今日この頃です。今回は眠りやすさと自律神経の関係について、より良い睡眠を目指すためのアクションの観点からお話ししたいと思います。 自律神経は呼吸、循環、体温、消化、代謝、分泌、生殖など、生体維持のための基本かつ重要な役割を担います。自律神経は交感神経と副交感神経に分かれており、自律神経に支配される臓器の活動性は、交感神経と副交感神経の興奮レベルのバランスによって制御されています。覚醒中は活発な精神活動や身体活動を支えるため、交感神経の活動が優位となります。 一方、睡眠中は脳や身体の休息のため、副交感神経の活動が優位になります。特に睡眠脳波で判別するノンレム睡眠(non-REM sleep)※では副交感神経の活動が優位となり、脳を休めるように働きます。 眠りの時間が近づくと、自律神経は睡眠に先行する形で機能が変化することが分かっています。睡眠に問題のない健常成人では、消灯60分前から副交感神経の活動が優位になり、消灯30分前から交感神経の活動が低下することが報告されています。このため、自然の良眠を得るために、私たちは自律神経の機能変化を阻害しないように意識する必要があります。 ところで、睡眠障害は、身体機能、精神機能のほか、行動や認知など多方面にマイナスの影響を及ぼします。特に睡眠障害による精神的影響は重要で、睡眠不足は人の不安感を高め、うつ的な気分を招きかねません。人は不安感が強くなると、心身の緊張状態が高まり、より一層眠れなくなり、より深刻な睡眠障害に陥る危険性があります。このため、日頃から良質な睡眠がとれるように意識していく必要があります。 理想的な睡眠とは、すぐに眠れる、ぐっすり深く眠れる、すっきり目覚められる睡眠と言われます。しかし、筆者は何よりもまずは眠りに入れることが最も重要だと考えています。そのためにも副交感神経が優位に活動するようにすることが、とても重要です。下に睡眠に影響しうる要素を挙げました。 良眠を得るためのアプローチは大きく2つあり、1つは眠る環境である睡眠環境を最適化することです。そして、もう1つは眠りやすい状態に体を整えることです。そして、この2つのアプローチは、たとえ睡眠障害で薬剤を服用していたとしても、その服薬量を減量、中止していくためにも、ぜひ一度チェックしていただければと思います。【図1.睡眠に影響する因子】<睡眠環境> <生体因子>□光(照明) □生体リズム(生活リズム)□音 □日中の過ごし方□温度 □精神的ストレス□湿度 □適度な運動(筋肉疲労)□香り □血糖値□寝具 □疾患管理 ■快適な就寝環境をつくる ここからは睡眠を得るために、まずは自身が眠る環境が、睡眠に適した環境かどうかを確認する必要があります。睡眠環境に関する研究では、暑くも寒くもない温度、すなわち中性温度のときに、最も安定した睡眠が得られることが報告されています。このため、眠る部屋の温度、湿度が快適な設定になっているかどうかは、睡眠にとても重要な要素です。しかし、室温以上に大切なのは寝具内部で、睡眠中に体を包み込む寝具内部の温度や湿度が快適である必要があります。 次に就寝に向けて、室内の照明にも注意を払う必要があります。脳内で催眠作用をもつメラトニンは、昼間に低く、夜に高くなる傾向があります。メラトニンは光の影響を受けやすく、メラトニン分泌が増える夜でも、強い光によりメラトニン分泌は低下し、覚醒方向に傾いてしまうことがあります。 このため就寝前は照明の色と光の強さに配慮が必要で、照明の色は色温度3000ケルビン(電球色と言われる黄色からオレンジがかった色)、光の強さは照度30ルクスという輝度でより速やかに入眠できるとされています。このため、白色の室内照明からいきなり就寝するのではなく、眠りに向けて徐々に照明を暖色系に切り替え、光の強さを弱めていくことで睡眠の準備に入るのが理想かもしれません。 また、寝床や寝床周りの環境も大切です。寝床の周囲に高い家具が置かれていると、脳は無意識のうちに倒れてこないかと心配になり、入眠に向けた精神的リラックス状態が阻害されかねません。高齢者や高齢の方を介護している方は、夜中にトイレに行き来する動線の安全確保も重要で、夜中に転んで怪我をしない状況にしておくことも、入眠前の不安や緊張を減らしてくれると考えます。 寝室の臭いも忘れてはならない重要な要素で、不快な臭いにを除去しておくことはもちろんですが、心地よさを感じる香りを利用することも検討に値すると思います。アロマオイルなどの芳香成分が、入眠時に主体となる副交感神経の活性を高め、睡眠に有効であることがこれまでの研究で示されています。 ■眠りやすい体のコンディションをつくる ここからは眠りやすい体のコンディションづくりについてお話します。カフェインを取り過ぎない、寝酒をしない、夜にスマートフォンを見ないなどの生活上の注意点は、皆さんがすでに耳にされたことがあるかと思いますので、ここでは詳述は省略します。その代わりに、血糖の低下が睡眠の妨げになりうることをお伝えし、今回のコラムを締めくくりたいと思います。 就寝前の夜食や夜中の間食は、肥満や朝食の⽋食、体内時計の後退などの健康へのマイナス影響が指摘されています。その一方、夕食を食べてから就寝までの時間が長い場合、あるいは夕食を終えてから寝るまでの活動量が多い場合には、それなりのカロリー消費があるため、就寝時刻に血糖が低めになっている場合もあります。 また、ダイエットを目的に過度に炭水化物を減らした夕食を摂取している場合にも就寝時の血糖の低さが懸念されます。就寝時の空腹状態は、交感神経の刺激を招き、心身の緊張が高まり睡眠に入る方向とは真逆の状態となります。 このため、睡眠時の過度な空腹を避けることも良眠を得る上で大切な要素だと考えます。このため、肥満や朝の欠食につながらない程度で、睡眠前に軽食(特に炭水化物)を取ることも睡眠の助けになることがあります。 【引用参考文献】 豊浦麻記子ら.概日リズム・睡眠と自律神経機能.脳と発達54巻6号P311-316.2022年 中村 勤. 睡眠と寝具の快適性. 線維と工業64巻12号P414-418.2008年 0801391,繊維学会ファイバ12月号/4-特集-中村 (jst.go.jp) 北堂真子.良質な睡眠のための環境づくり.バイオメカニズム29巻4号P194-198.2005年 ja (jst.go.jp) 睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン 睡眠薬の適正使用ガイドライン_睡眠学会Online版_140828改訂 (jssr.jp) 健康づくりのための睡眠ガイド2023 001181265.pdf (mhlw.go.jp) e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-048.html