「腎を知る」―腎トラブルの早期発見のための尿検査

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 人体を構成する細胞が正常に活動できるためには、体内環境を適切に維持する必要があります。これは体内の水分量と電解質濃度が適切に維持され、体内の酸・アルカリのバランスが適切に調整され、そして不要な老廃物が適切に体外に排泄される必要があります。この役割の中心を担うのが、皆さんご存知の通り腎臓です。腎臓は尿を生成するプロセスを通じ、体内環境のバランス維持に重要な役割を果たしています。

 このように生命維持に重要な腎臓ですが、肝臓と並んで沈黙の臓器です。余程のダメージを受けない限り、自覚症状がでません。逆を言えば、自覚症状が出たときには、腎臓の障害がかなり進んだ状態である可能性があります。筆者自身も、気が付いたら透析が必要な状況になっていた、というような患者さんに何度も出会ってきました。このため、腎臓については症状のない段階から、定期的に腎臓の異常を把握することがとても重要になります。

 腎臓の異常を知る方法には大きく分けて、尿検査、血液検査、そして腎臓の形態を知る画像検査(例:腹部超音波検査)があります。今回はこれら3つの検査アプローチのうち、尿検査について詳しくお話したいと思います。

 尿検査について、そもそもなぜ尿検査をするのか、血液検査だけではだめなの?という疑問を持たれる方もいらっしゃるかと思います。実は血液検査で腎臓の機能が低下していることは把握できます。しかし、一般的な血液検査では腎臓にどのような異常が起きているか、、そしてその概況を知ることができません。尿検査は血液検査で把握できない情報を示し、その情報によって腎臓で起きていることが予測できます。また、血液検査で腎機能の異常が出現する以前から、尿検査で腎臓に生じているトラブルを早期に検知することができます。このため尿検査はとても欠かせない検査です。

 ここから尿検査をより深くご理解いただけるよう腎臓で尿がつくられるプロセスをお話します。尿の生成は「血液のろ過」と「原尿の濃縮」の2工程に分けることができます。まず、尿の原料は血液の液体成分です。この血液を供給する血管は腎動脈といい、腎動脈は腹部の大動脈から分岐して腎臓の奥に入っていきます。腎動脈を通過した血液は、腎臓の表層にある腎皮質にある「糸球体」と呼ぶ細い毛細血管の丸まっている部分を通過します。糸球体は細い毛細血管の塊で、この毛細血管を通過する際に血液の液体成分がろ過され、尿の素となる「原尿」がつくられます。

 皆さんは小中学校の理科の実験で、漏斗にろ紙を備え付けて、液体のろ過をして、ビーカーにろ液が残ったのを覚えていらっしゃると思います。腎臓の「糸球体」のイメージとしては、まさに理科の実験で使ったろ紙です。そして、ビーカーに残ったろ液が、尿の素になる原尿です。理科の実験で使用するろ紙が傷んでいると、本来はろ紙側に残るはずの物質がろ液に混ざり込んでしまいます。これと同じで腎臓の糸球体でも炎症などが原因となり、糸球体の障害があると、本来は尿中で出ていかないはずの赤血球や蛋白質が、糸球体の壁から漏れ出て、原尿中に出てしまい、尿蛋白や尿潜血陽性として検出されることになります。

 ここで話を尿の生成プロセスに戻します。糸球体で血液がろ過されつくられた原尿の中には、グルコールや水分、電解質など、体にとって有益で再利用できる物質がたくさん残っています。このため原尿は、そのままでは尿として排出されず、尿細管という管を通過する間に、水、グルコースやアミノ酸、電解質が再吸収され血管内に戻されます。その一方、尿細管を通過する間にカリウムや水素イオンが尿中に分泌され、これにより体内のカリウム濃度や酸・アルカリのバランスが一定に保たれます。尿細管を通過した原尿は集合管という管を通じて集められ、尿として腎臓を出ていきます。この尿細管に異常を来した場合も、尿細管機能障害として各種疾患の発症原因につながります。余談ですが尿細管や集合管に作用し、水の再吸収を抑制し、尿量を増やすのが利尿剤です。

 このように腎臓で生じるトラブルの多くが、尿をつくるプロセスに影響を及ぼし、最終生成物である尿の異常につながります。これが腎臓の異常を検知する上で尿検査が重要な理由です。

 ところで、健康診断や臨床現場で実施される尿検査には「尿一般検査」と「尿沈渣」の2種類があります。このため「尿検査」と言ったとき、「尿一般検査」のみの場合と「尿一般検査」と「尿沈渣」の両方を同時に実施している場合があります。下にこの2つの尿検査について、違いが分かりやすいように表にまとめました。

尿検査の種類

 尿一般検査尿沈渣
検査内容尿中蛋白の有無 尿糖の有無 潜血反応の有無 ウロビリノーゲンの有無 尿比重尿中の赤血球数 尿中の白血球数 円柱の有無と種類の確認 尿中の細菌の有無 尿中の各種結晶
検査方法試験紙法顕微鏡検査
検査の性質定性検査半定量検査
検査の目的体の異常のスクリーニング尿中の赤血球の有無や白血球数 尿潜血陽性時の赤血球有無の確認
検査のメリット1回の検査で多項目の異常を スクリーニングできる目視なので基本的には偽陽性がない

 尿一般検査と尿沈渣は得られる情報が異なります。尿一般検査は、試験紙による尿検査になります。同時に複数項目をチェックすることが可能です。具体的な検査内容は「尿蛋白」「尿糖」「尿潜血」「ウロビリノーゲン」が一般的です。尿一般検査は定性検査なので、その結果は「尿蛋白(1+)、尿潜血(2+)、ウロビリノーゲン(-)」というように、プラス、マイナスで結果が記載されます。

 これに対し、尿沈渣は尿中に含まれる物質を顕微鏡で目視確認する検査です。具体的には顕微鏡で見る前に尿を遠心分離機にかけ、沈殿物を顕微鏡で確認します。このため、試験紙で実施できる尿一般検査と異なり、尿沈渣は人手がかかります。しかし、この尿沈渣は臨床現場では欠かすことのできない検査です。例えば、尿一般検査で尿潜血陽性となったとき、その尿潜血陽性が本当に血液による陽性かどうかを最終判断するには、尿沈渣で目視検査することが欠かせないのです。

 今度、検査結果を受け取る際には、ご自身が受けた尿検査は、尿一般検査か、あるいは尿一般検査と尿沈渣なのか、少し意識してご覧ください。次回は、尿検査で尿潜血が陽性になったときの考え方、受診すべき診療科についてお話します。      

医師 加藤開一郎

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