「腎を知る2回目」―血尿で想定される疾患は

Category:
ヘルスケア

contents section

 内科外来や救急外来で遭遇頻度の高い所見の1つに「血尿」があります。診療する立場では、「血尿」は非常に神経を使う所見の1つです。それは血尿を来す背景に「がん」や「腎機能低下を来しうる腎疾患」など重篤な疾患が潜んでいることがあるからです。特に尿路系のがんは、自覚症状が少なく血尿が唯一の所見であるケースも少なくありません。尿検査は腎疾患のスクリーニングと同時に、尿路系の悪性腫瘍のスクリーニングも兼ねています。特に中高年以降は、尿路系腫瘍のリスクが高まります。今回は「血尿」、さらには関連する疾患についてお話したいと思います。

血尿には2種類の血尿がある

 「血尿」は尿中に赤血球が混入した状態を指しますが、血尿には「肉眼的血尿」と「顕微鏡的血尿」の2つがあります。「肉眼的血尿」は、文字通り尿の見た目が赤色調で(コーラ色のように褐色調のこともある)、すぐに赤血球の混入がわかる状態を指します。血尿ガイドライン2023年によれば、肉眼的血尿は1ℓの尿に1㎖以上の血液が混入した状態とされています。外来に「血尿が出た」と心配されて来院される方の多くは、ご自身で尿の赤みを自覚されている「肉眼的血尿」の状態です。一方、見た目は赤くない尿にも、赤血球が混在していることがあり、これを「顕微鏡的血尿」と呼びます。これは文字通り顕微鏡で尿を観察し、初めて赤血球の存在が分かる血尿の状態を指します。

「血尿」と「尿潜血」の関係

 「血尿」という用語に対し、「尿潜血」という用語があります。「尿潜血」は、尿一般検査で実施された尿潜血試験紙の反応結果を表記する用語です。例えば、健康診断の結果報告で尿潜血(1+)、尿潜血(-)というような表記をご覧になったことがあると思います。また「尿潜血陽性」という表現をすることもあり、これは試験紙で尿潜血反応が(1+)~(4+)のいずれか陽性の状態を指しています。ここで留意いただきたいのは、「尿潜血陽性=血尿」ではないことです。尿一般検査は試験紙法で実施されますが、尿中に赤血球が存在しないのに、尿潜血反応が陽性となる偽陽性の場合があります。このため、尿潜血が陽性となった場合には、顕微鏡で尿中に赤血球が存在するかどうか目視で確認する必要があります。また、尿検査の前にアスコルビン酸(ビタミンC)などを摂取すると、血尿が存在しても尿潜血反応が陰性と出てしまうことがありますので、採尿検査の前には注意が必要です。

血尿の原因は多岐にわたる

 再び血尿のお話に戻します。血尿の原因は多岐に渡りますが、肉眼的血尿、顕微鏡的のどちらも必ず尿に血液が混じる原因があります。その手がかりとなるのが、尿中の赤血球の形です。尿中の赤血球の形態により血尿は「糸球体性血尿」と「非糸球体性血尿」に大別することができます。これは、尿中に含まれる赤血球の形が、その由来により異なる傾向があることを利用したもので、血尿の原因を特定する上でとても重要な手がかりになります。

「糸球体性血尿」とは

 「糸球体」という用語がでましたが、糸球体は腎臓の中で血液をろ過するろ過装置の役割を果たし、尿のもとになる原尿をつくるところです。通常は腎臓で尿が生成されるとき、赤血球が尿中に排泄されることはありません。しかし、膠原病や自己免疫疾患、あるいは感染症などが原因となり、糸球体に異常をきたすと、糸球体から尿中に赤血球が漏れ出ることがあります。腎炎や腎症と呼ばれる疾患の多くで、糸球体由来の血尿がみられます。この糸球体性血尿を診療するのは腎臓内科が診療の主体になります。

「非糸球体性血尿」とは

 一方、腎臓の糸球体以外の部位が原因となり血尿を生じることがあり、これを「非糸球体性血尿」と表現します。非糸球体性血尿の多くは、腎臓で生成された尿が、運ばれる経路のいずれかからの出血によるものです。図1に尿路の模式図をお示しします。左右の腎臓で生成された尿は、腎盂で尿が集められた後、尿管に流れていきます。そして、尿管を経て膀胱に尿が流れていきます。男性の場合、さらに前立腺を経て尿道に尿がながれ排尿されます。非糸球体性血尿は、尿路の出血により血尿を生じます。

血尿を生じる尿路の異常には、その原因によりいくつかに分類することができます。代表的なものが尿路感染症です。膀胱炎や尿道炎、腎盂腎炎、細菌性前立腺炎などがこれにあたります。また、尿路結石も血尿の原因となります。そして、最も注意を要するのが「尿路のがん」です。尿路のがんには、腎臓癌、腎盂癌、尿管癌、膀胱癌、前立腺癌、尿道癌があります。年齢を高いほど、尿路の悪性腫瘍のリスクは高くなります。腎臓癌をはじめとする尿路のがんは進行するまで、自覚症状がないことが多く、血尿が唯一の手がかりであることが少なくありません。このため、健診で尿潜血を指摘されたときは、放置することなく必ず受診していただき、適宜、精密検査を受けていただければと思います。

◆成人の泌尿器科領域の顕微鏡的血尿を来す疾患例

 腫瘍感染症異物解剖的異常外傷
腎臓腎癌 腎盂癌  腎盂腎炎腎結石腎動静脈瘻 腎動脈瘤 ナットクラッカー症候群腎外傷
尿管尿管癌 尿管結石  
膀胱膀胱癌膀胱炎膀胱結石膀胱憩室膀胱破裂
前立腺前立腺癌前立腺炎   
尿道尿道癌尿道炎尿道結石 尿道損傷

*血尿ガイドライン2023より引用改変

◆成人の肉眼的血尿を来す疾患例

腎臓IgA 腎症 紫斑病性腎炎 急性糸球体腎炎 腎細胞癌 腎良性腫瘍 腎結石 腎動静脈奇形 ナットクラッカー症候群 運動性血尿 特発性腎出血(腎盂内の微小血管、乳頭血管腫、静脈瘤の破綻など)
腎盂腎盂腎炎 腎盂尿管移行部狭窄症 腎盂癌
尿管尿管結石 尿管癌 尿管狭窄症
膀胱膀胱癌 膀胱炎 膀胱結石 放射線性膀胱炎 間質性膀胱炎
前立腺前立腺炎 前立腺肥大症 前立腺癌
尿道尿道癌 尿道結石
その他外傷、異物

*血尿ガイドライン2023より引用改変

【主な参照引用文献】

血尿診断ガイドライン2023

医師 加藤開一郎

Category:
ヘルスケア

related post

関連記事