内科初診医の視点、私はここを見ている

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                  臨床診断研究センター 医師 加藤開一郎

 筆者は20年ほど、内科医として働いてきました。筆者の診断がついていない患者さん、いわゆる内科外来や救急外来の初診を長年担当してきました。実にさまざまな症状の方と出会ってきました。日々の業務を通じて感じるようになったのは、「医療は情報処理である」ということです。これは、医師の仕事は「情報収集」と「収集した情報の統合処理」にあると考えられるからです。

 問診、診察、血液検査、画像検査等の検査は、全て1つの目的のために実施されます。その目的とは、「診断と対処法の決定」です。医師は集めた種別の異なる情報から、診断を決定し、治療法を含めた対処法を決める「情報の統合処理」をそれぞれの患者さんに対して実施していると言えるのです。医師が適切な判断を下すには、情報の欠落なく情報収集することが重要です。

 内科初診外来や救急外来に来院する患者さんは、初めてお会いする患者さんが多く、これまでどのような既往歴や基礎疾患があるか、普段どのような薬剤を使用しているか、全くわからないことが多々あります。特に薬剤情報はとても重要で、患者さんの症状が使用している薬剤の副作用であることも多々あります。場合によってはかかりつけの医師に既往歴や使用薬剤を問い合わせることもあります。それくらい、これらの情報は重要なのです。

 患者さんの診察は、診察室に入る前から始まります。診察というと、聴診や打診、触診などを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、聴診、打診、触診だけが診察ではありません。最も大切なのは、今その患者さんがどういう状態にあるかの概況や重症感を五感で把握することなのです。

 筆者は出来るだけ、自ら診察室の扉を開けて、待合席に座っている患者さんを呼び入れするようにしています。これには理由があります。椅子から立ち上がり、診察室までの動きから多くの情報を収集できるからです。

 具体的には、待合席の椅子からの立ち上がり方、およびその時の表情から、意識の状態、全身状態、筋力や麻痺の有無、体のバランスまでを読み取るのです。歩き方の異常は、それだけで脳、筋肉、骨格の問題があることを把握できますし、腹痛で来院した方も、歩行で腹痛が響くかどうかである腹膜炎の合併を読み取ることができます。

 また、重症な心疾患、慢性の呼吸疾患の方は、わずかな歩行でも息切れをすることが多く、待合席から診察室までの歩行中の呼吸の仕方、呼吸の音を聞けば、重症度を把握することができ、重症と判断できれば入院を前提に初めから患者さんやご家族と話を進められます。

 さらに診察に入って来られたときのにおいも重要で、きちんと入浴できているか清潔が保たれているかなどの生活状況を推測することができます。また、息のにおいも重要で、呼気のにおいからはアルコール性の疾患を疑うきっかけになりますし、悪臭のある呼気の場合、副鼻腔など気道のどこかに感染が起きていることが予想できます。

 また、表情や声のトーン、質問への受け答えのスムーズさも重要で、意識障害の有無や認知機能低下、脳疾患、うつ傾向の有無を読み取ります。

 各種検査が進歩した今日でも、患者さんへの問診、診察の重要性はいまだ変わりません。むしろ、適切な問診、診察をして、適切な検査計画を立てることが重要です。

 今回は内科初診医が患者さんのどのようなところを見ているかをお話しさせていただきました。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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