睡眠と自律神経-良眠を得るために

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医師 加藤 開一郎

 残暑が一段落し、寝苦しい夜から解放されつつある今日この頃です。今回は眠りやすさと自律神経の関係について、より良い睡眠を目指すためのアクションの観点からお話ししたいと思います。

 自律神経は呼吸、循環、体温、消化、代謝、分泌、生殖など、生体維持のための基本かつ重要な役割を担います。自律神経は交感神経と副交感神経に分かれており、自律神経に支配される臓器の活動性は、交感神経と副交感神経の興奮レベルのバランスによって制御されています。覚醒中は活発な精神活動や身体活動を支えるため、交感神経の活動が優位となります。

 一方、睡眠中は脳や身体の休息のため、副交感神経の活動が優位になります。特に睡眠脳波で判別するノンレム睡眠(non-REM sleep)※では副交感神経の活動が優位となり、脳を休めるように働きます。

 眠りの時間が近づくと、自律神経は睡眠に先行する形で機能が変化することが分かっています。睡眠に問題のない健常成人では、消灯60分前から副交感神経の活動が優位になり、消灯30分前から交感神経の活動が低下することが報告されています。このため、自然の良眠を得るために、私たちは自律神経の機能変化を阻害しないように意識する必要があります。

 ところで、睡眠障害は、身体機能、精神機能のほか、行動や認知など多方面にマイナスの影響を及ぼします。特に睡眠障害による精神的影響は重要で、睡眠不足は人の不安感を高め、うつ的な気分を招きかねません。人は不安感が強くなると、心身の緊張状態が高まり、より一層眠れなくなり、より深刻な睡眠障害に陥る危険性があります。このため、日頃から良質な睡眠がとれるように意識していく必要があります。

 理想的な睡眠とは、すぐに眠れる、ぐっすり深く眠れる、すっきり目覚められる睡眠と言われます。しかし、筆者は何よりもまずは眠りに入れることが最も重要だと考えています。そのためにも副交感神経が優位に活動するようにすることが、とても重要です。下に睡眠に影響しうる要素を挙げました。

 良眠を得るためのアプローチは大きく2つあり、1つは眠る環境である睡眠環境を最適化することです。そして、もう1つは眠りやすい状態に体を整えることです。そして、この2つのアプローチは、たとえ睡眠障害で薬剤を服用していたとしても、その服薬量を減量、中止していくためにも、ぜひ一度チェックしていただければと思います。

【図1.睡眠に影響する因子】
<睡眠環境>   <生体因子>
□光(照明)   □生体リズム(生活リズム)
□音       □日中の過ごし方
□温度      □精神的ストレス
□湿度      □適度な運動(筋肉疲労)
□香り      □血糖値
□寝具      □疾患管理

■快適な就寝環境をつくる

 ここからは睡眠を得るために、まずは自身が眠る環境が、睡眠に適した環境かどうかを確認する必要があります。睡眠環境に関する研究では、暑くも寒くもない温度、すなわち中性温度のときに、最も安定した睡眠が得られることが報告されています。このため、眠る部屋の温度、湿度が快適な設定になっているかどうかは、睡眠にとても重要な要素です。しかし、室温以上に大切なのは寝具内部で、睡眠中に体を包み込む寝具内部の温度や湿度が快適である必要があります。

 次に就寝に向けて、室内の照明にも注意を払う必要があります。脳内で催眠作用をもつメラトニンは、昼間に低く、夜に高くなる傾向があります。メラトニンは光の影響を受けやすく、メラトニン分泌が増える夜でも、強い光によりメラトニン分泌は低下し、覚醒方向に傾いてしまうことがあります。

 このため就寝前は照明の色と光の強さに配慮が必要で、照明の色は色温度3000ケルビン(電球色と言われる黄色からオレンジがかった色)、光の強さは照度30ルクスという輝度でより速やかに入眠できるとされています。このため、白色の室内照明からいきなり就寝するのではなく、眠りに向けて徐々に照明を暖色系に切り替え、光の強さを弱めていくことで睡眠の準備に入るのが理想かもしれません。

 また、寝床や寝床周りの環境も大切です。寝床の周囲に高い家具が置かれていると、脳は無意識のうちに倒れてこないかと心配になり、入眠に向けた精神的リラックス状態が阻害されかねません。高齢者や高齢の方を介護している方は、夜中にトイレに行き来する動線の安全確保も重要で、夜中に転んで怪我をしない状況にしておくことも、入眠前の不安や緊張を減らしてくれると考えます。

 寝室の臭いも忘れてはならない重要な要素で、不快な臭いにを除去しておくことはもちろんですが、心地よさを感じる香りを利用することも検討に値すると思います。アロマオイルなどの芳香成分が、入眠時に主体となる副交感神経の活性を高め、睡眠に有効であることがこれまでの研究で示されています。

■眠りやすい体のコンディションをつくる

 ここからは眠りやすい体のコンディションづくりについてお話します。カフェインを取り過ぎない、寝酒をしない、夜にスマートフォンを見ないなどの生活上の注意点は、皆さんがすでに耳にされたことがあるかと思いますので、ここでは詳述は省略します。その代わりに、血糖の低下が睡眠の妨げになりうることをお伝えし、今回のコラムを締めくくりたいと思います。

 就寝前の夜食や夜中の間食は、肥満や朝食の⽋食、体内時計の後退などの健康へのマイナス影響が指摘されています。その一方、夕食を食べてから就寝までの時間が長い場合、あるいは夕食を終えてから寝るまでの活動量が多い場合には、それなりのカロリー消費があるため、就寝時刻に血糖が低めになっている場合もあります。

 また、ダイエットを目的に過度に炭水化物を減らした夕食を摂取している場合にも就寝時の血糖の低さが懸念されます。就寝時の空腹状態は、交感神経の刺激を招き、心身の緊張が高まり睡眠に入る方向とは真逆の状態となります。

 このため、睡眠時の過度な空腹を避けることも良眠を得る上で大切な要素だと考えます。このため、肥満や朝の欠食につながらない程度で、睡眠前に軽食(特に炭水化物)を取ることも睡眠の助けになることがあります。

【引用参考文献】

豊浦麻記子ら.概日リズム・睡眠と自律神経機能.脳と発達54巻6号P311-316.2022年

中村 勤. 睡眠と寝具の快適性. 線維と工業64巻12号P414-418.2008年

0801391,繊維学会ファイバ12月号/4-特集-中村 (jst.go.jp)

北堂真子.良質な睡眠のための環境づくり.バイオメカニズム29巻4号P194-198.2005年

ja (jst.go.jp)

睡眠薬の適正な使⽤と休薬のための診療ガイドライン

睡眠薬の適正使用ガイドライン_睡眠学会Online版_140828改訂 (jssr.jp)

健康づくりのための睡眠ガイド2023

001181265.pdf (mhlw.go.jp)


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