肝機能障害を放置した先は

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肝臓疾患で毎年5万人が命を落としている

 日本の肝臓疾患による死亡者数は年間5万人にのぼると推計されています。その多くが、「肝硬変」、または「肝細胞がん」による死亡です。肝臓疾患は、時間軸で大別すると、あるとき急激に肝臓障害を来す急性肝疾患と、長期間に渡り肝臓を障害する慢性肝疾患があります。この「慢性肝疾患」を背景に「肝硬変」や「肝細胞がん」を生じていきます。「肝硬変」や「肝細胞がん」で命を落とさないため、慢性の肝疾患に早く気付き、適切に対処することがとても大切になります。

「沈黙の臓器」の異常を知る

 肝臓は「沈黙の臓器」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。肝臓表面の覆う被膜には痛みを感じる神経が走行(その方向に連なっている状態)していますが、肝臓内部には痛みを感知する神経がありません。このため、肝臓の内部でトラブルが生じても、なかなか症状として自覚することができません。このため、肝臓疾患に気付いたときには、すでに疾患が進行していたということも少なくありません。このような事態を避けるためにも健康診断(健診)の肝機能検査はとても重要です。

肝障害の鑑別疾患は多岐におよぶ

 ある症状や所見に対し、可能性が想定される疾患を「鑑別疾患」と言います。健診の肝機能検査の項目であるAST(GOT)やALT(GPT)、γ-GTPの上昇は「肝機能障害」、または「肝障害」「肝逸脱酵素上昇」「肝機能異常」などと表現の仕方が統一されていませんが、本稿では「肝障害」と表現していきます。下表に肝障害の原因となる主なものをリストアップしました。肝障害の原因は多岐にわたります。

肝硬変の症状

 慢性の肝疾患は放置すれば、肝細胞が壊れていき、壊れた肝細胞の部分を埋めるかの可ように線維組織に置き換わっていきます。これを「肝臓の線維化」といい、肝臓の線維化が進行し、肝臓が硬くなった状態を「肝硬変」と呼びます。肝硬変はその重症度から代償性(※)肝硬変と非代償性肝硬変に分かれます。代償性肝硬変は、症状がないことも多いですが、非代償性肝硬変は、肝臓の機能低下による様々な症状が出現してきます。

※「代償性」とは肝臓の機能が保たれ症状が現れないことが多く、「非代償性」は肝機能を代償することができない程度にまで悪化している状態

肝硬変で起きてくること

 肝臓はアルブミンをはじめとするタンパク質を合成する役割がありますが、肝機能が低下した肝硬変の状態ではアルブミンが低下し、全身でむくみ(浮腫が)が起きやすくなります。また血液を固めるのに必須の凝固因子と呼ばれるタンパク質もまた肝臓でつくられますが、障害の進んだ肝臓ではこれが産生(生み出すこと)できないため、出血しやすくなります。また、肝臓には糖分を貯蔵し、血糖の調整にも関与していますが、肝機能が低下すると低血糖を来すこともあります。これ以外に非代償性肝硬変になると、さらにさまざまな合併症が出現します。

肝硬変が進行すると

肝性脳症は非代償性肝硬変の代表的な合併症の1つです。肝臓はタンパク質の合成と同時に様々な物質の分解や無毒化を担っている臓器です。肝硬変ではアンモニアをはじめとする老廃物を処理ができなくなり、これが脳神経に影響し、精神状態や意識状態に異常を来します。また、肝硬変では腹腔(腸管や腹部臓器の間のスペース)に腹水が溜まり、お腹が膨れあがり非常に苦しい思いをします。

肝硬変は多臓器不全の原因に?

 通常は腸管を巡った血液は門脈という血管に集まり、肝臓の中を通過しますが、肝硬変に至ってしまうと、肝臓の中を血液が通過するのに抵抗が生じ、門脈圧亢進症という病態が生じます。腸管からの血液がうまく肝臓に戻れなくなる門脈圧亢進症は、食道や胃の静脈を拡張させ胃・食道静脈瘤になり、時にこれらの静脈瘤は破裂し、吐血や下血を生じます。さらに門脈圧亢進症は脾臓に影響を及ぼし、脾機能亢進症という状態となり、血小板減少や白血球数減少を引き起こします。血小板減少により全身で出血しやすくなり、白血球減少のため感染症に罹患しやすく、さらに重症化しやすくなります。さらに門脈圧亢進症は、肺の微小血管を拡張させ低酸素血症、呼吸困難を引き起こします。近年は肝硬変のような重症肝疾患が、腎障害の原因となることが判明し、これを肝腎症候群と呼びます。

 つまり、肝硬変が進行すると脳、肺、腎臓、血球など、生命維持するための主要臓器に悪影響が出現し、生命を維持することが困難となってきます。肝硬変は患者さんにとって、非常に苦しい状況をもたらします。そして肝硬変患者さんの半数が肝臓がんを合併しているといわれ、特にC型肝炎、B型肝炎による肝硬変の患者さんはハイリスクになります。

 このような状況を回避するためにも、まずは肝臓の異常を検知し、次に「肝臓の線維化」を確認し、できる限り肝硬変への進行を防いでいく必要があります。

≪引用参考文献≫
肝硬変診療ガイドライン2020(改定第3版)
NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改定第2版)
B型肝炎治療ガイドライン
C型肝炎治療ガイドライン
肝癌診療ガイドライン 

医師 加藤開一郎

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