医師 加藤 開一郎
健康診断や医療機関を受診した際に、血液検査で総蛋白(TP)とアルブミン値(Alb)を見かけたことのある方は多いと思います。総蛋白やアルブミンは、健診で肝機能や栄養の指標として案内されがちです。しかし、実はこの2つの検査項目の解釈は奥が深いです。本コラムでは「総蛋白の上昇」に着目し、お話したいと思います。
まず、総蛋白とは血液の液体成分(血清)に含まれるさまざまな蛋白質の総量を測定した値です。総蛋白を構成する多種の蛋白の中で最も多いのがアルブミンで、総蛋白の重量の60%前後を占めます。そして、総蛋白の11~19%を占めるのがガンマグロブリン(抗体成分)と呼ばれる蛋白質で、ガンマグロブリンは免疫細胞がつくり出したさまざまな抗体のことです。
抗体成分が血液中の蛋白質の11~19%を占めると考えると、抗体が占める総蛋白に占める割合は決して小さくないことが分かります。それゆえ、体の中のトラブルは抗体の量に影響し、その結果として総蛋白の値に影響してくることがあります。
ここからは、総蛋白が上昇した際にどう解釈するのかの手順をお話しします。まず、総蛋白の上昇が見られた場合、最初に血液の濃縮による総蛋白の上昇の可能性を確認します。特に健康診断では、絶飲食で水分不足となり、血液が濃縮している方が少なくありません。このため、血液の濃縮による総蛋白の上昇は時々、見かけます。血液濃縮による総蛋白の上昇かどうかを見極めるのに役立つのが、同じ検査日のヘモグロビン(Hb)、尿酸値(UA)、尿素窒素(BUN)の値です。血液が濃縮しているときは、血液中の水成分が減った状態なので、ヘモグロビンや尿酸、尿素窒素もやや上昇傾向となるのです。
しかし、血液の濃縮がなさそうで、総蛋白の上昇がある場合には、ガンマグロブリンが増加するようなトラブルが起きていないかを確認する必要があります。
この確認をする方法が「蛋白分画(たんぱくぶんかく)」という方法です。「蛋白分画」を簡単にいうと、血液中でどの蛋白成分が増加しているかを確認する検査です。蛋白分画の検査によりガンマグロブリンが過剰となった状態を臨床医は高ガンマグロブリン血症と呼びます。
高ガンマグロブリンが生じる原因は、大きく2つに分けられます。1つは抗体をつくる免疫細胞の異常です。もう1つが感染症や膠原病や自己免疫疾患と呼ばれるような体内に何らかの慢性炎症が生じている可能性です。前者の具体的な疾患は、多発性骨髄腫、MGUS(意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症)、マクログロブリン血症、クリオグロブリン血症、一部の悪性リンパ腫などの血液疾患が中心となります。後者の疾患で感染症以外には、シェーグレン症候群、自己免疫性肝炎、IgG4関連疾患、キャッスルマン病、各種血管炎、橋本病などがあります。
このように、総蛋白の上昇は、重要疾患が背景に潜んでいることを知るための重要な手がかりとなるのです。
しかし、総蛋白の基準値には落とし穴があります。実は総蛋白の値が基準値内でも問題ないとは、言い切れないのです。それは、栄養不足や肝硬変、慢性的な炎症疾患が存在する場合には、総蛋白の最大構成要素であるアルブミンが低下し、見かけ上の総蛋白値が基準値内になってしまうからです。そのため、総蛋白とアルブミンの値を見比べて、相対的に総蛋白の量が増加していないかを確認していくことが重要になってきます。
「A/G比」という検査項目をご覧になったことはありますでしょうか。これは「アルブミン/グロブリン比」といい、アルブミンの増減の影響を受けずにグロブリン成分の増減をみるための指標で、総蛋白とアルブミン値から算出できます。
A/G比=アルブミン/グロブリン比
=血清アルブミン/(総蛋白―血清アルブミン)
基準値例:1.3―1.9(※施設により計算式・基準値が異なります)
例えば、人間ドックの検査で総蛋白7.5、アルブミン4.5だった人は、A/G比=4.5/(7.5-4.5)=4.5/3.0=1.5となります。医療機関によってはA/G比がすでに計算された状態で記載されていることもありますので、お手元に検査結果があれば、一度ご確認ください。
A/G比が低下する場合、免疫グロブリン成分が増えている可能性があり、蛋白分画などの追加検査が必要です。また、A/G比が上昇している場合、免疫グロブリン(抗体)が減少している可能性があり、免疫細胞が正常に抗体を産生できていない可能性に気付くきっかけとなります。免疫グロブリンの減少は、薬剤によって生じた事例も報告されています。
少し専門的な内容となりましたが、今回は血液検査の「総蛋白の上昇」をどのように解釈するかをお話させていただきました。総合病院で実施された総蛋白の上昇の頻度は、検査者の7%と報告する論文もあり、決して稀ではなさそうです。ありふれた検査項目の数値を丁寧に見ることで、疾患の発見につながることがあるのです。一度、ご自身の検査結果を意識してご覧いただければと思います。
【主要文献】
自動分析装置を用いたM蛋白スクリーニング検査法の試み
医学検査 74巻1号P109-117.2025年
正常人口の血清タンパク質分画に関する研究
日本健康生態学会誌42巻5号P318-329.1976年
血清蛋白分画測定の意義.臨床化学2巻1号P1-15.1973
p-ニトロベンズアルデヒド法とブロモクレゾールグリーン法を組み合わせた血清アルブミン/グロブリン比の測定法に関する検討
分析化学51巻8号P641-645.2002年
血清蛋白分画検査を院内で実施する意義
電気泳動61巻2号P74-78. 2017年
血清蛋白異常症-免疫グロブリン異常症を中心に
日本内科学会雑誌 64巻5号P421-429. 1975年
免疫グロブリン定量値と血清蛋白分画値に乖離がみられた2症例
生物物理化学 51巻4号P237-241. 2007年
長期にわたる健診データ異常(貧血,血小板増多,総蛋白上昇,アルブミン低下,CRP上昇)を呈した症例
日本内科学会雑誌100巻10号P3106-3107. 2011年
原発性マクログロブリン血症の診断と治療
日本内科学会雑誌106巻9号P1948-1953. 2017
Castleman病とIgG4関連疾患―多クローン性高γ-グロブリン血症からの鑑別.医学のあゆみ235巻5号P443-448. 2010年
著明な高γグロブリン血症を呈し,特発性血小板減少性紫斑病を合併した自己免疫性肝炎の1例
日本免疫学会誌15巻2号P208-214. 1992年
高γグロブリン血症,骨髄内形質細胞の増加を伴ったリンパ腫関連血球貪食症候群.臨床血液39巻12号P1175-1179. 1998年
IgA(λ)型単クローン性高ガンマグロブリン血症の2例
医療49巻8号P673-676. 1995年
診断に苦慮した症例 内科学会雑誌108巻4号P805-810. 2019年



