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抑うつ状態

  • 石井匡さん

    【第9回】見守る、許す、助けてもらうことを恐れなくていい。分かち合える幸せをくれた妻に「ありがとう」

    石井匡さん プロフィール 看護師 病院勤務1978年生まれ 埼玉県上福岡市(現ふじみ野市)出身 看護師歴16年。最初に勤務した病院では外科・内科混合病棟に勤務。その後総合病院に転職し現在は消化器外科病棟の看護師として勤務する。29歳の時、離婚問題が原因でうつ状態となる。職場の理解や友人のサポート、鍼灸治療により回復し健康を取り戻す。その後再婚し新しい家庭生活をスタート。病棟の看護師としてマネージメントや後輩の教育など、管理職としても活躍中。 🍀幸せだったはずの家庭が突然崩壊しはじめた衝撃 ———看護師さんのお仕事は夜勤もあり、かなり激務というイメージがありますが。  そうですね。もう慣れていますが、平均して1か月に5~6回の夜勤がありますし、定期的なシフトではないので体調管理のリズムは作りにくいかもしれません。たまに寝不足でイライラする事はありますが、この仕事を選んだ以上それは当然のことだと思っています。 ———まだ男性看護師さんは少数派ですか?  はい。男性看護師は増えてきていますが圧倒的に女性の職場ですね。看護学校を卒業した時、同級生の中で男性は二人でした。でも職場では性別に関係なく誠実に接していれば患者さんは受け容れてくれますし「男の看護師さんってやさしいよね」とこっそり言われる事もあるんですよ。 ———不規則な勤務体制や職場のストレスから深刻な抑うつ状態になられたということですか?  うつ状態になった直接の原因は、仕事ではなく家庭生活のほうでした。23歳で結婚し、2人の子どもにも恵まれ家庭を大切にしていたつもりですが、20代前半はどうしても仕事に集中しなければならない時期が続きました。29歳になってやっと仕事にも余裕が生まれ家庭も楽しむことができそうという感じになってきた時、妻による精神的な攻撃が始まったのです。 ———精神的な攻撃とはどんなことなのでしょう?  突然、妻が私の一挙一動や過去のことを徹底的に批判し始めたのです。私は仕事にもポジティブに取り組むほうですし、いろいろなことに正面から向きあい努力するタイプで、問題があっても話し合いで妥協点をみつけてきました。しかし、人からあれほどまでに攻撃的な言動をぶつけられた経験はありませんでしたし、ずっと一緒に暮らしてきた妻の態度だけに衝撃を受けました。 あらゆることに文句を言われ、否定され「離婚したい、出て行ってほしい」といった言葉の暴力が約3ヶ月続いたことで私は次第に自信を失い、何事にもビクビクするようになっていきました。 🍀友人からの指摘に「そうか、これがうつなのか」 専門知識はあっても殻に閉じこもってしまうと自分の状態に気づけなくなる ———どんな症状になったのでしょうか?  本当に、全然眠れないのです。「よく寝たな」と思って目が覚めて時計を見ても長くて2時間しか眠れていません。心配した友人が飲みに行こうと誘ってくれるのですが「こんな状況で飲み会にお金を使っていいのか?」と、それも不安になる感じで、1人で家でぼーっとしている事が増えました。食べ物が何も喉を通らなくなって、もともと60kgだった体重は52kgになっていました。約4ヶ月くらいはまともな食事を取れなかったですね。 ———そのような精神状態で看護師のお仕事は大丈夫だったのでしょうか?  幸い職場が病院で、メンタルヘルスに理解のある仕事場だったので、上司に事情を話し1週間休ませてもらいました。その後出勤してもいつも通りの仕事はできない状態でしたが「仕事には来なさい」と言っていただけたことが幸いでした。 ———医療者としてうつに関する知識は持っていたのですか?  仕事がら知識はあります。しかしこれが自分に起きた時には、いま抱えている問題のほうに意識が向いているので、自己修復はなかなか難しい。自分でもおかしいなと何となく気づいてはいるのですが人にはなかなか相談しづらく、次第に殻に閉じこもっていきました。 ある日誘われたお酒の席で友人の1人が「こりゃあ、うつだろう」と言ったんですね。その時初めて「そうか、これがうつなのか」と。 ———精神科などは受診はしたのですか?  完全な抑うつ状態だったと思いますが、うつに対する薬が自分の今の状態に効くのかどうか疑問があり、職場の医師に睡眠薬だけを処方してもらっていました。看護師をしていますが、私自身は薬はいろいろある選択肢の1つと考えています。薬で症状を抑え、その薬で出てしまった副作用をまた別の薬で抑えるというような、過剰に薬に頼るやり方には疑問を感じていました。ただ、食べられないし眠れない状態だけは何とかしなくてはと思い、男性看護師の先輩で、現在は鍼灸師をしている草間健二さんに、鍼でなんとかならないか相談しました。 🍀「言い出す勇気」から動き始めた回復への道 ———鍼灸師の草間さんはどんな治療をしたのでしょうか?  草間さんは照明を落とした静かな施術室で、私の話に相づちを打ちながらお腹や足に鍼をさしていきました。遠赤外線でお腹もぽかぽかとあたたまってきて、自分が久しぶりにリラックスしていることを感じました。10本目くらいだったと思いますが、お腹に打った鍼を草間さんが手で軽く回した瞬間に、ズッコーンと体の中に響く感じがしました。胃が刺激されたのかキューンと動き、ググーッとお腹がなったのです。4ヶ月ぶりに空腹を感じた自分に驚きました。施術のあと本当に強い空腹を感じたので、そのまま草間さんと鍼灸院の向かいにあるステーキハウスに行ってステーキを食べました。 鍼治療にくわえて先輩のカウンセリングの効果も大きかった。現在も疲れると鍼治療をしてもらう。 ———鍼ってそんなに即効性があるものなのでしょうか?  鍼だけの効果ではなかったと思いますが、この事が僕の転機になったことは確かです。まず状況を分かってくれていて信頼できる友人(草間さん)に助けてほしいと「言い出す勇気」を出せたこと。それから、問題が発覚してからずっと緊張状態でいたことを受け止めてもらえた感じがして、ふっと緊張がほどけた。「手当て」と言う言葉がありますが、鍼を打つ際に手で体に触れてもらったことの安心感も大きいと思いますね。 ———そこからどうやって本格的な回復に向かったのでしょうか?  まず日常に戻るために、食事を定期的に食べるように意識しました。食べられればお腹がいっぱいになり眠気もきます。睡眠薬を使って強制的に眠るのではなく、自然に近い流れの中で眠れるように変えていきました。眠る事、食べる事ができるようになり、少しずつ本来の自分を取り戻して行きました。 しかし、そんな時、妻の私に対する攻撃的な言葉や態度、離婚を望む理由が、私の問題ではなく、実は妻の不倫であることが分かったのです。はっきりとそれを知った時には、裏切られた思いからそのままふうっと電車に飛び込むことも考えました。そんな様子を見た友人が腕をつかんで「今死ぬ気でしょ」と言ってくれたのです。その言葉で我に返った瞬間「ああ、彼女との修復のためにできることはすべてやり切った。離婚しよう」と決心がついたのです。その後約3年がかりで裁判をし、離婚が成立しました。 🍀人を信頼し、頼る事で生まれた新しい関係性と働き方 車での移動時間は仕事・家庭の切り替えを行う大切な時間 ———うつ状態から脱出する為にはどんな事が必要なのでしょう。  僕の場合は家族関係で起きたことですが、他人から繰り返し執拗な攻撃を受けた場合、日頃ポジティブで真面目に物事に取り組む人ほどダメージが大きいような気がします。自分の殻に閉じこもってしまわないように、日頃から相談できる相手を持っておく事が大切だと思いますね。飲み友達、仕事のことを議論できる人、その人といるだけで笑いたくなる人など、いろいろなタイプの人がいるといいです。それから、いろいろなことをリセットしなければならない場面でも、何か1つは前の生活と変わらないことを維持するのも大切だと思います。 僕の場合は仕事や住むところ、車での通勤を維持し続けることでした。 行きつけの飲み屋もある住み慣れた自宅近くの商店街。 ———それまではあまり人に頼らず頑張るタイプだったのですね。  はい、それまでは仕事の場面でもどこかで「自分がやらなきゃ」と思っていました。しかし、思い通りに働けなくなる状態を経験してみて、自分がそこまでがつがつしなくても仕事が回ることを発見しましたし、リーダーとして後輩を育てる場合も、見守る・許す・助けてもらう事を恐れなくていいと思うようになりました。自分自身の考えがガラッと変わりましたね。出来ない後輩がいても、そのうち出来るようになるから安全だけは気をつけて見守るということができるようになった。 ———その後今の奥様と出会ってご結婚なさったのですね。  はい。妻は同業者で看護師ですが、とてもゆったりとした穏やかな人柄です。優しく私に歩調をあわせてくれる。仕事の忙しさも理解してくれるので自分の納得できる仕事を彼女に気を使わずにやらせてもらうことができています。 ———奥様初め、ずいぶんいろいろな方に助けていただいたのですね  そうですね。僕の状態に理解を示してくれた上司、職場の同僚たち、自殺しそうな時に腕をつかんで止めてくれた友人、鍼灸師の草間さん。みんなに感謝しています。でも誰か一人をと言われたら、再婚した今の妻に感謝したいです。 妻の前では職場で感じたことなどを安心して話す事ができます。彼女は私の話をまず受け止めてくれます。そして感じた事を全部話したあと、妻の考えを聞くと、私と驚くほど価値観が似ていることが少なくありません。だから彼女に一回話してみることで、自分を一度リセットして、そのことをもう一度客観的に積極的に考える事ができるのです。家庭でも妻と仕事の話を分かち合えることが本当に幸せだと思っています。 インフォメーション:気を整える事でメンタルを改善する 石井さんは、もともとは元気で発散系のタイプの人ですが、当時はその発散するエネルギーがなくなるほど体が衰弱しきっており、これ以上悪くなると入院が必要という状態でした。そこで、まず食べられる状態にすることで、睡眠がとれるようになることを目指し治療しました。あの時は治療した私自身が驚くほどの効果が出ました。腹と足の指に鍼を刺して胃を刺激することが改善のきっかけとなったと思います。鍼をつぼに打つ事で気のバランスを整える効果もありますが、安心できる場所で施術しながら同時にカウンセリング的な対話をしたことで、数ヶ月続いた緊張から解き放たれた部分も大きいと思います。鍼灸は体全体のバランスを整えるもので、体の気の下がっているところを持ち上げていくという感覚で施術を行います。 草間健二さん 鍼灸 健美・大山 院長鍼灸師・看護師 (撮影)多田裕美子

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    【第9回】見守る、許す、助けてもらうことを恐れなくていい。分かち合える幸せをくれた妻に「ありがとう」

    石井匡さん プロフィール 看護師 病院勤務1978年生まれ 埼玉県上福岡市(現ふじみ野市)出身 看護師歴16年。最初に勤務した病院では外科・内科混合病棟に勤務。その後総合病院に転職し現在は消化器外科病棟の看護師として勤務する。29歳の時、離婚問題が原因でうつ状態となる。職場の理解や友人のサポート、鍼灸治療により回復し健康を取り戻す。その後再婚し新しい家庭生活をスタート。病棟の看護師としてマネージメントや後輩の教育など、管理職としても活躍中。 🍀幸せだったはずの家庭が突然崩壊しはじめた衝撃 ———看護師さんのお仕事は夜勤もあり、かなり激務というイメージがありますが。  そうですね。もう慣れていますが、平均して1か月に5~6回の夜勤がありますし、定期的なシフトではないので体調管理のリズムは作りにくいかもしれません。たまに寝不足でイライラする事はありますが、この仕事を選んだ以上それは当然のことだと思っています。 ———まだ男性看護師さんは少数派ですか?  はい。男性看護師は増えてきていますが圧倒的に女性の職場ですね。看護学校を卒業した時、同級生の中で男性は二人でした。でも職場では性別に関係なく誠実に接していれば患者さんは受け容れてくれますし「男の看護師さんってやさしいよね」とこっそり言われる事もあるんですよ。 ———不規則な勤務体制や職場のストレスから深刻な抑うつ状態になられたということですか?  うつ状態になった直接の原因は、仕事ではなく家庭生活のほうでした。23歳で結婚し、2人の子どもにも恵まれ家庭を大切にしていたつもりですが、20代前半はどうしても仕事に集中しなければならない時期が続きました。29歳になってやっと仕事にも余裕が生まれ家庭も楽しむことができそうという感じになってきた時、妻による精神的な攻撃が始まったのです。 ———精神的な攻撃とはどんなことなのでしょう?  突然、妻が私の一挙一動や過去のことを徹底的に批判し始めたのです。私は仕事にもポジティブに取り組むほうですし、いろいろなことに正面から向きあい努力するタイプで、問題があっても話し合いで妥協点をみつけてきました。しかし、人からあれほどまでに攻撃的な言動をぶつけられた経験はありませんでしたし、ずっと一緒に暮らしてきた妻の態度だけに衝撃を受けました。 あらゆることに文句を言われ、否定され「離婚したい、出て行ってほしい」といった言葉の暴力が約3ヶ月続いたことで私は次第に自信を失い、何事にもビクビクするようになっていきました。 🍀友人からの指摘に「そうか、これがうつなのか」 専門知識はあっても殻に閉じこもってしまうと自分の状態に気づけなくなる ———どんな症状になったのでしょうか?  本当に、全然眠れないのです。「よく寝たな」と思って目が覚めて時計を見ても長くて2時間しか眠れていません。心配した友人が飲みに行こうと誘ってくれるのですが「こんな状況で飲み会にお金を使っていいのか?」と、それも不安になる感じで、1人で家でぼーっとしている事が増えました。食べ物が何も喉を通らなくなって、もともと60kgだった体重は52kgになっていました。約4ヶ月くらいはまともな食事を取れなかったですね。 ———そのような精神状態で看護師のお仕事は大丈夫だったのでしょうか?  幸い職場が病院で、メンタルヘルスに理解のある仕事場だったので、上司に事情を話し1週間休ませてもらいました。その後出勤してもいつも通りの仕事はできない状態でしたが「仕事には来なさい」と言っていただけたことが幸いでした。 ———医療者としてうつに関する知識は持っていたのですか?  仕事がら知識はあります。しかしこれが自分に起きた時には、いま抱えている問題のほうに意識が向いているので、自己修復はなかなか難しい。自分でもおかしいなと何となく気づいてはいるのですが人にはなかなか相談しづらく、次第に殻に閉じこもっていきました。 ある日誘われたお酒の席で友人の1人が「こりゃあ、うつだろう」と言ったんですね。その時初めて「そうか、これがうつなのか」と。 ———精神科などは受診はしたのですか?  完全な抑うつ状態だったと思いますが、うつに対する薬が自分の今の状態に効くのかどうか疑問があり、職場の医師に睡眠薬だけを処方してもらっていました。看護師をしていますが、私自身は薬はいろいろある選択肢の1つと考えています。薬で症状を抑え、その薬で出てしまった副作用をまた別の薬で抑えるというような、過剰に薬に頼るやり方には疑問を感じていました。ただ、食べられないし眠れない状態だけは何とかしなくてはと思い、男性看護師の先輩で、現在は鍼灸師をしている草間健二さんに、鍼でなんとかならないか相談しました。 🍀「言い出す勇気」から動き始めた回復への道 ———鍼灸師の草間さんはどんな治療をしたのでしょうか?  草間さんは照明を落とした静かな施術室で、私の話に相づちを打ちながらお腹や足に鍼をさしていきました。遠赤外線でお腹もぽかぽかとあたたまってきて、自分が久しぶりにリラックスしていることを感じました。10本目くらいだったと思いますが、お腹に打った鍼を草間さんが手で軽く回した瞬間に、ズッコーンと体の中に響く感じがしました。胃が刺激されたのかキューンと動き、ググーッとお腹がなったのです。4ヶ月ぶりに空腹を感じた自分に驚きました。施術のあと本当に強い空腹を感じたので、そのまま草間さんと鍼灸院の向かいにあるステーキハウスに行ってステーキを食べました。 鍼治療にくわえて先輩のカウンセリングの効果も大きかった。現在も疲れると鍼治療をしてもらう。 ———鍼ってそんなに即効性があるものなのでしょうか?  鍼だけの効果ではなかったと思いますが、この事が僕の転機になったことは確かです。まず状況を分かってくれていて信頼できる友人(草間さん)に助けてほしいと「言い出す勇気」を出せたこと。それから、問題が発覚してからずっと緊張状態でいたことを受け止めてもらえた感じがして、ふっと緊張がほどけた。「手当て」と言う言葉がありますが、鍼を打つ際に手で体に触れてもらったことの安心感も大きいと思いますね。 ———そこからどうやって本格的な回復に向かったのでしょうか?  まず日常に戻るために、食事を定期的に食べるように意識しました。食べられればお腹がいっぱいになり眠気もきます。睡眠薬を使って強制的に眠るのではなく、自然に近い流れの中で眠れるように変えていきました。眠る事、食べる事ができるようになり、少しずつ本来の自分を取り戻して行きました。 しかし、そんな時、妻の私に対する攻撃的な言葉や態度、離婚を望む理由が、私の問題ではなく、実は妻の不倫であることが分かったのです。はっきりとそれを知った時には、裏切られた思いからそのままふうっと電車に飛び込むことも考えました。そんな様子を見た友人が腕をつかんで「今死ぬ気でしょ」と言ってくれたのです。その言葉で我に返った瞬間「ああ、彼女との修復のためにできることはすべてやり切った。離婚しよう」と決心がついたのです。その後約3年がかりで裁判をし、離婚が成立しました。 🍀人を信頼し、頼る事で生まれた新しい関係性と働き方 車での移動時間は仕事・家庭の切り替えを行う大切な時間 ———うつ状態から脱出する為にはどんな事が必要なのでしょう。  僕の場合は家族関係で起きたことですが、他人から繰り返し執拗な攻撃を受けた場合、日頃ポジティブで真面目に物事に取り組む人ほどダメージが大きいような気がします。自分の殻に閉じこもってしまわないように、日頃から相談できる相手を持っておく事が大切だと思いますね。飲み友達、仕事のことを議論できる人、その人といるだけで笑いたくなる人など、いろいろなタイプの人がいるといいです。それから、いろいろなことをリセットしなければならない場面でも、何か1つは前の生活と変わらないことを維持するのも大切だと思います。 僕の場合は仕事や住むところ、車での通勤を維持し続けることでした。 行きつけの飲み屋もある住み慣れた自宅近くの商店街。 ———それまではあまり人に頼らず頑張るタイプだったのですね。  はい、それまでは仕事の場面でもどこかで「自分がやらなきゃ」と思っていました。しかし、思い通りに働けなくなる状態を経験してみて、自分がそこまでがつがつしなくても仕事が回ることを発見しましたし、リーダーとして後輩を育てる場合も、見守る・許す・助けてもらう事を恐れなくていいと思うようになりました。自分自身の考えがガラッと変わりましたね。出来ない後輩がいても、そのうち出来るようになるから安全だけは気をつけて見守るということができるようになった。 ———その後今の奥様と出会ってご結婚なさったのですね。  はい。妻は同業者で看護師ですが、とてもゆったりとした穏やかな人柄です。優しく私に歩調をあわせてくれる。仕事の忙しさも理解してくれるので自分の納得できる仕事を彼女に気を使わずにやらせてもらうことができています。 ———奥様初め、ずいぶんいろいろな方に助けていただいたのですね  そうですね。僕の状態に理解を示してくれた上司、職場の同僚たち、自殺しそうな時に腕をつかんで止めてくれた友人、鍼灸師の草間さん。みんなに感謝しています。でも誰か一人をと言われたら、再婚した今の妻に感謝したいです。 妻の前では職場で感じたことなどを安心して話す事ができます。彼女は私の話をまず受け止めてくれます。そして感じた事を全部話したあと、妻の考えを聞くと、私と驚くほど価値観が似ていることが少なくありません。だから彼女に一回話してみることで、自分を一度リセットして、そのことをもう一度客観的に積極的に考える事ができるのです。家庭でも妻と仕事の話を分かち合えることが本当に幸せだと思っています。 インフォメーション:気を整える事でメンタルを改善する 石井さんは、もともとは元気で発散系のタイプの人ですが、当時はその発散するエネルギーがなくなるほど体が衰弱しきっており、これ以上悪くなると入院が必要という状態でした。そこで、まず食べられる状態にすることで、睡眠がとれるようになることを目指し治療しました。あの時は治療した私自身が驚くほどの効果が出ました。腹と足の指に鍼を刺して胃を刺激することが改善のきっかけとなったと思います。鍼をつぼに打つ事で気のバランスを整える効果もありますが、安心できる場所で施術しながら同時にカウンセリング的な対話をしたことで、数ヶ月続いた緊張から解き放たれた部分も大きいと思います。鍼灸は体全体のバランスを整えるもので、体の気の下がっているところを持ち上げていくという感覚で施術を行います。 草間健二さん 鍼灸 健美・大山 院長鍼灸師・看護師 (撮影)多田裕美子