2022年4月、院長を拝命しました。1999年1月にこの病院に赴任してきて以来、20年以上の歳月が過ぎました。麻酔科医の病院トップは珍しいかもしれません。
院長に就任してから、「総合大雄会病院をどのような病院にしたいか」と聞かれることがよくあります。その時は、「職員全員が輝ける病院にしたい」と答えています。そうすることで、一人でも多くの患者さんに満足のいく医療を提供できると信じているからです。
麻酔科は直接、患者さんと関わることが少ない診療科です。他の診療科ならば、患者さんからの感謝の言葉にやりがいを感じるでしょうが、少なくとも麻酔科医である私には、その経験がありません。その代わり、術者(手術を担当する医師)から信頼されることに最大の喜びを感じます。
大学卒業後、麻酔科医局の門をたたいてからしばらく、手術麻酔に専念していました。総合大雄会病院に来てからは、本格的に集中治療に関わることになりました。手術麻酔だけをしていた時は、手術が終わったら麻酔の仕事も終わっていましたが、集中治療室で術後の患者さんを診るようになり、自分の術中管理が術後に及ぼす影響を知ることができました。手術麻酔では経験できない症例にも遭遇したり、麻酔科の知識を集中治療管理に生かしたりすることができたので、あらたな道が開けた感じがしました。
社会医療法人大雄会総合大雄会病院高田基志院長
集中治療をしていると、どうしても救えない命があります。若い女性の劇症肝炎になった患者さんは、「まだ死にたくない」と言っていましたが、結局、救うことはできませんでした。心臓手術を受けた高齢者は、術後の経過が芳しくなく、「手術しなければもう少し生きられたのに」と言っていました。どちらも、とげのように私の心に深く突き刺さって、いまだに抜けません。医師として、どんな言葉をかければ良かったのか、 うそでも「大丈夫ですよ。きっと良くなります」と言ってあげればよかったのか、いまだに答えはでていません。
ITによるコミュニケーション促進が必要、PHRは医療を根底から変える
病院には多くの職種の方が働いています。その専門性を生かし、一人でも多くの患者さんに満足のいく医療を提供できるような体制を作りたいと考えています。自分のやっていることが患者さんにとってプラスになっていると実感できることでモチベーションアップにつながり、働くことの意義を見いだすことができるでしょう。これを実現するためには、何でも言うことができる環境を整えなければなりません。いわゆる、心理的安全性が確保された職場にしなければなりません。これを実現するためにはITを利用したコミュニケーションの促進も必要だと思います。
最後に、皆さんがお使いになっているPHR(パーソナルヘルスレコード)「カルテコ」は、日本の医療を根底から変える可能性を秘めていると思っています。これまで、日本の医療は、病気になった人を救済する制度でした。もちろん、これは素晴らしい制度です。しかし、これからは病気にならないようにすることが重要になってくると思います。そのツールであり、プラットフォームであるのがPHRです。そして、その使命は「健康寿命の延伸」であると考えています。この使命を頂点に掲げることで、PHRに付随するさまざまな事業もぶれることなく実現することができると思います。
いずれ、PHRの医療データと、スマートウォッチなどから得られるヘルスケアデータを統合し、人工知能(AI)が健康予測をする時代がやってきます。例えば、健康指標として「健康寿命」が算出できるようになるかも知れません。利用者は自分の健康寿命が、同じ年代の人と比較してどうなのかを知り、どうすれば延伸できるのかAIがアドバイスするといった時代は目の前まで来ているように思います。ヘルスケア産業は裾野が広く、これから大きく成長する分野でもあります。その中で中核をなすのがPHRだと考えています。