「認知症」という言葉は、認知機能が低下した状態を指しますが、その原因になる疾患や病態は多岐にわたります。一般的には認知症と言えば、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症をイメージされる方が多いかもしれません。認知症を診療する医師にとって重要なことは、上記のような代表的な認知症以外の「治療が可能な認知症」の疾患を見つけ出すことです。
以下の疾患は、その疾患を治療することで認知症の症状が改善、または治る可能性がある「治療が可能な認知症」の例です。医師は認知機能低下を訴える患者さんを初めて診療するとき、下記に挙げたような疾患が隠れていないかチェックする必要があります。きちんと検査もせずに、常用薬の確認をしないで認知症治療薬が処方されてしまうことは避けなければなりません。
治療が可能な認知機能低下を来す疾患例
▢ 栄養障害(ビタミンB1欠乏症 、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏、ビタミンD欠乏症)
▢ 甲状腺機能低下症
▢ 電解質異常
▢ 脳炎
▢ 神経梅毒
▢ ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染
▢ 特発性正常圧水頭症
▢ 反復性低血糖
▢ 脳腫瘍
▢ 脳血管炎
▢ 慢性硬膜下血腫
▢ せん妄
▢ うつ病
▢ 特殊なてんかん
▢ 薬剤誘発性認知機能障害
上記のような基礎疾患による認知症を見逃さないために、認知症の患者さんの診療においては、頭部の画像検査、血液検査で肝障害や腎障害の有無、甲状腺機能、電解質(カルシウムを含む)、ビタミンB1、ビタミンB12、葉酸のチェックが推奨されています。また、可能性がある場合は、HIVや梅毒の検査を実施することも必要です。
盲点になりやすいのは、薬剤による認知機能の低下の薬剤誘発性認知機能障害です。高齢になると薬剤を分解排泄する肝臓や腎臓の機能が低下し、認知機能低下を招きやすくなることがあります。特に多くの種類の薬剤を併用している場合、薬剤性の認知機能低下が生じやすいとされます。特に抗コリン作用を有するフェノチアジン系抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬、三環系抗うつ薬は認知機能低下を招きやすいとされ、それ以外にも日常的に使用される薬剤でも、認知機能低下を誘発する可能性のある薬剤は沢山あります。このため、認知機能の低下が気になったら、医師に使用している薬剤を確認してもらうことも大切です。
認知機能低下を誘発しやすい薬剤
【向精神薬】
▢ 抗精神病薬
▢ 催眠薬(睡眠薬)
▢ 鎮静剤
▢ 抗うつ薬
【向精神薬以外の薬剤】
▢ 抗パーキンソン病薬
▢ 抗てんかん薬
▢ 循環器病薬(ジギタリス・利尿剤・一部の降圧剤)
▢ 鎮痛薬(オピオイド・非ステロイド性抗炎症薬)
▢ 副腎皮質ステロイド
▢ 抗菌薬(抗生物質)、抗ウイルス薬
▢ 抗腫瘍薬
▢ 泌尿器病治療薬(過活動膀胱の治療薬)
▢ 消化器病薬(H2受容体拮抗薬、抗コリン薬)
▢ 喘息治療薬
▢ 抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)
※引用改変:認知症診療ガイドライン2017 P47
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_02.pdf
医師 加藤 開一郎