「腎を知る最終回」―慢性腎臓病(CKD)とは
「腎を知る」の最終回は慢性腎臓病(略称CKD:Chronic Kidney Disease)についてお話します。腎臓障害は、時間的経過の観点から2つに大別することができます。普段は腎機能が正常だった人が、急激(数日~数週のうちに)に腎機能が低下する場合、この時の腎臓の障害は「急性腎障害」と表現されます。急性腎障害の原因はさまざまですが、その55%は元の腎機能に改善します。しかし、残り45%は腎機能が元の水準まで改善せず、CKDや末期腎不全に移行すると報告されています。急性腎障害がCKDに移行してしまう危険因子は、高血圧、糖尿病、心不全、低アルブミン血症、高齢などが指摘されています。
急性の腎障害に対し、慢性の腎障害はCKDと表現され、その定義は「健康に影響を与えうる腎臓の構造上、または機能の異常が3ヶ月間を超える場合」とされます。日本のCKDの人の数は約1500万人と言われ、成人の7~8人に1人はCKDと言われています。なお、CKDという用語は「腎機能が低下している状態」の総称なので、CKDには腎機能の低下を来す背景にはさまざまな疾患があります。
CKDという概念が生まれた背景には、透析や腎移植を必要とする人の世界的な増加があります。腎障害のある患者さんをできるだけ早期に発見し、その原因に応じた治療や生活習慣の改善を進めることで、透析や腎移植に至る人の数を減らそうという目的があります。このCKDの背景疾患には、生活習慣病に関連したものでは、糖尿病で生じる「糖尿病性腎臓病」、高血圧による「高血圧症性腎硬化症」という疾患があります。また、「腎炎」と言われるような腎臓に慢性的な炎症を来す疾患もCKDの原因疾患の1つになります。
自分自身がCKDかどうかは、普段受けている健康診断や人間ドックの血液検査や尿検査で慢性腎臓病の存在を知ることができます。「血清クレアチニン値の上昇」や「尿蛋白や血尿」があれば、腎臓に障害があると疑われます。実際に臨床現場では、尿蛋白量はCKDの診断や重症度の判定に使用されています。また、CKDの診断や重症度を判断する上で、欠かせないのがGFR(糸球体ろ過量)という指標です。GFRは少し聞き慣れないかもしれませんが、血清クレアチニン値と年齢、性別から推定算出することが可能な指標です。
クレアチニンは筋肉で産生される物質で、血清のクレアチニンは体の筋肉量の影響を受けます。腎臓の機能を年齢や性差による体格の違いの影響を加味して計算します。そして、GFRはその値から6段階に分類され、GFRの値が低下するほど、腎臓の機能が低下していると考えます。腎臓内科専門医の受診や専門医療機関の受診が望ましいかどうかは2つの基準により判断し、その1つが上述の尿蛋白量(糖尿病ではアルブミン量)であり、もう1つがGFRなのです。
CKDのGFR(糸球体ろ過量)による重症度区分
区分 | GFR(単位:ml/分/1.73㎡) | 重症度解釈 |
G1 | ≧90 | 正常または高値 |
G2 | 60~89 | 正常または軽度低下 |
G3a | 45~59 | 軽度~中等度低下 |
G3b | 30~44 | 中等度~高度低下 |
G4 | 15~29 | 高度低下 |
G5 | <15 | 高度低下~末期腎不全 |
現在、CKDはガイドラインがしっかり整備され、どの段階ならば腎臓内科専門医に紹介され精査されるべきか明示されています。腎臓内科医がCKDとして患者さんを紹介された際は、個々の患者さんごとに、CKDの背景にある疾患や原因を突き止め、その原因にあった治療を進めていくことになります。知らない間に腎機能が低下し、透析が必要になる事態にならないように、普段から健診結果や診療データをしっかり保存・管理し、定期的に時間的変化をご自身で把握していただければと思います。
【引用参考文献】
CKD診療ガイドライン2023
血尿診断ガイドライン2023
日本内科学会雑誌113巻3号P452-458.2024
医師 加藤 開一郎