紛らわしい健診所見の用語
今回は心臓の形態に関する健康診断などでの所見についてお話しいたします。
健診や人間ドックの所見で「心拡大」や「心肥大」と書かれたことがある方もいると思います。どちらも心臓の形態を表現する用語ですが、「心拡大」と「心肥大」を混同されている患者さんが少なくありません。しかし、「心拡大」と「心肥大」は、意味するところが全く異なりますし、想定する疾患も大きく異なります。以下の表をご覧ください。
「心拡大」は文字通り心臓全体の大きさが拡大した状態を指します。医師から「心臓が大きくなっています」と言われた場合は、この心拡大を意味します。心拡大の有無を判断する方法は胸部レントゲンです。
しかし、ここで疑問が浮かびます。体が大きい人と小柄な体格の人の心臓のサイズを比べたら、体格が大きい人のほうが心臓の大きさの絶対値が大きいと考えるのが自然です。
この課題に対し、臨床現場では心胸郭比という指標を利用しています。心胸郭比は心臓の横幅を胸の横幅で割った数値です。一般には心胸郭比50%以上を心拡大の有無の目安としています。すなわち胸の横幅の半分以上を心臓の横幅が占めていれば、心拡大の可能性が疑われます。
このように肺の検査だと思われがちな胸部レントゲン検査ですが、実は肺だけをみているのではなく、心臓の形態と心臓とつながる大動脈、肺動脈、肺静脈なども観察しています。言い換えれば、健診で受ける胸部レントゲン検査は、肺疾患だけではなく、循環器領域の疾患の存在を知る上でとても重要な検査ともいえるのです。
次に「心肥大」ですが、心肥大は「心臓肥大」とも言われ、心臓の壁が厚くなった状態を指します。心臓の壁は主に心筋で構成されますので、「心肥大」といえば、一般的には心筋が厚くなった状態を指します。上述の通り、心拡大は胸部レントゲンで確認できますが、心臓の壁の厚みは、レントゲン画像では知ることができません。
心肥大の有無は、心臓超音波検査で心臓に直接、超音波をあてて確認します。少し詳しい話になりますが、心筋の厚みが増すとき、心臓の外側に向かって筋肉が厚くなるのではなく、心臓の内腔に向かって筋肉が厚みを増していくことが多いです。
このため、心臓のサイズは正常なのに、心臓超音波検査で調べたら、心肥大のことがあります。心臓の壁が明らかな厚みを帯びてくると、心電図にも変化が出てくる場合があります。その場合、心臓超音波検査をしなくても、心電図所見から「心肥大疑い」となる方もいます。
ご自身の健診の所見や病気を理解する上で、まずは用語の意味を正確に知ることが大切です。本コラムをお読みいただき、医師に過去にかかった病気を聞かれたとき、心拡大と心肥大を区別して答えられるようになるのではないでしょうか。
次回以降は「心拡大」、「心肥大」が見られたとき、どのような疾患が想定されるのか、その原因にフォーカスしていきます。
医師 加藤 開一郎